陣内家の朝は早く、朝日が昇ると同時に一家の人たちは起きて朝の支度を始める。
パソコンからOZに入ろうとするが大混乱が起きているようだ。
すぐに検索すれば先日からこの家に寝泊まりしている少年の顔写真が掲載されている。

「何やってんの、あいつ…」

ヘタレな顔をしてやることは一丁前か。
OZが混乱しているならキングカズマとの連絡はできない。
渋々服を着替えて、ノーパソを片手に引きこもり部屋から足を踏み出す。
むわりとした熱気が体を覆い思わず舌打ちをしてしまった。

「…佳主馬」

その足で納戸まで出向くとその問題児の小磯健二までもいた。

「梓、なにOZの事?」
「…ぼ、僕のアカウント乗っ取られたんです!」

あわあわと焦っている小磯健二に佳主馬が呆れた様子で落ち着けと言っている。
コードレスフォンを使ってサポートセンターに連絡するも回線がパンクしていて繋がらない状態らしい。

「そうだ、佐久間に……!」

小磯健二は佐久間というお友達と電話をしながらOZが混乱になった原因を話している。
その間に佳主馬からパソコンを借りてOZの管理棟の中に入る。

「何やんの?」
「調べもの」

アズサが次々とOZの管理棟に侵入していく。
OZのセキュリティーは確か2056桁の暗号で守られているが、パスワードが書き換えられていて管理棟に入れないようだ。

「……Solve Me…」

たしか2056桁の数字が送られてきたメールを思い出した。
ギャーギャー一人で騒いでいたかと思えば、小磯健二は顔を真っ青にさせた。

「…それ、僕です……。僕がやりました…」

すみませんと謝る小磯健二を横目にガタガタとタイピングでOZの監視を掻い潜りながらハッキングしていくが、途中で誰かに見つかってしまった。
そのアバターは小磯健二の物でアズサを捕まえようと囲っていく。

「ちょっと何やって」
「ああ!僕のアバター!!」
「見つかっちゃったみたいだから、ちょっと退散しなきゃなって」

暗号やパスワードを打ち込んでいきOZの管理棟から抜け出し、途中までのデータをUSBに保存していくがウイルスを流されて今度はそれを退治しなければならない。

「しっつこい…!!」
「え、え、いったい、何を…!」
「アズサがOZの管理棟に侵入してハッキングしてるの。」
「ええー!!?ちょ、な、何やってるんですか!!」

ビーッとパソコンが鳴り響き、あたしはそのまま脱力しUSBを抜き取った。

「どうだったの?」
「途中まで、もうすぐで深層部にたどり着くところだったけど…乗っ取られたアバターに邪魔された。しかもこのパソコンに厄介なウイルス送り込んできたから消すのに時間かかった」
「…す、すごい……何者なんですか梓さんって…」

元通りになったパソコンを佳主馬に返して、立ち上がるとパキパキと骨が鳴った。

「工学部に通ってる女子大生。特技はハッキング。」

唖然としている少年小磯健二。
パソコンになんとも可愛らしい容姿だが目が死んでるリスがログインした。
小磯健二が必死に乗っ取られたアバターに説得を試みるが、OZ全域がバトルフィールドになりOMCが始まってしまった。

「あああ………!」

OMCのルールで健二に勝てるわけがなかった。
必死にキーボードを操作している手つきは不慣れでOMCランキングでは底辺にいるんだろう。

「どいて!」

もうみてられないとばかりに、モニターの前に座る小磯健二を突き飛ばした佳主馬。
キーボードをひったくり流れるような動作でOZのユーザーを切り替えた。

「そっ、そっ、そのアバター……!う、うそっ!まさか」

新たに別のアバターが画面に現れ、見憶えのあるそのアバターを見て小磯健二は目を丸くする

「梓。」
「わかってるよ…」

持ってきたパソコンを広げてOZにログインする。
キング・カズマが偽ケンジを蹴り飛ばせば爆音のような大歓声。
OZを荒らしていく偽ケンジを挟み撃ちにするようにすれば、偽ケンジは下へと逃げていく。
キング・カズマはそれをさせないと言わんばかりに、すぐに追いすがり丸い耳を掴んで投げ飛ばす。
そこに待ち構えていたアズサが偽ケンジを捕まえて地面に叩きつければ弱った偽ケンジを捕まえた。

「す、すごい……つかまえた!」
「大したことないよ、こんなヤツ。」

佳主馬は冷静だった。
そりゃそうだ、
アバターの操作は人並みのようで、数々のバトルを勝利してきたカズマの敵ではない。

「どうする?コイツ」
「ちょっとデータもらう……」

アズサから大量のプラグが体中から出てきて偽ケンジに突き刺した。
自前のパソコンにそのデータをハッキングしている最中に子供たちが納戸までやって来て、邪魔してきた。

「え、ちょっと…!!!」
「あっ!」

わーわー暴れる真悟と裕平と小磯健二。
ギーギー暴れる偽ケンジを取り押さえているアズサの隙をついて抜け出されて、プラグまでも外されてしまった。

「まだ大丈夫!すぐにまた痛めつけて」

キング・カズマが偽ケンジに向かってダッシュするが、偽ケンジがくるりと身体の向きを変え、そばにいた野次馬のアバターに掴みかかる。

「えっ……?」

偽ケンジは三人の見ている前で、ギザギザの歯を生やした口を大きく開き、アバターを食べた。

「やばいってば…!!」

偽ケンジが逃げ惑うアバターを捕まえてはあんぐりと開けた大口で頭から一呑みにしている。
そばに獲物がいなくなると偽ケンジがこちらを振り返り、背後に光り輝く円盤が生まれた。
突然、偽ケンジの頭部がピリピリと音を立てて、真っ二つに裂けた。

「形が……」
「変わった……?」

脱皮をする蛇のように破れたアバターから大柄の人影が這い出る。
仁王のごとき凛々しい肉体に袈裟をまとったパステルカラーの仏像
異様な威圧感を放つ仏像が地面を蹴った

「なっ、なんんだ、コイツ……!」

キング・カズマが真正面から迎え撃った。
両者の放った拳がぶつかり合い、衝撃で地面が揺れる。
キング・カズマと仏像は頭一つ分の大きさが違う。

「くそっ……!速いっ……!」

キング・カズマが苦戦しながらもサマーソルトキックが繰り出されたが、先に敵を捉えたのは仏像が放ったサマーソルトキックだった。
一瞬の差で競り負けてしまったキング・カズマが弾き飛ばされる。

「それ、ゲーム?オレにもやらせて!」

ゲーム好きの子供達が小磯健二の腕から抜け出し佳主馬に飛びついたのだ。

「しってるぞ、これ!OZまーしゃる……なんとかってヤツ!」
「どう動かすの?」

完全に子供二人の存在を忘れていた小磯健二と佳主馬。
キーボードをめちゃくちゃにいじりだしたせいでキング・カズマの動きは止まり、殴られそうになったキング・カズマを足蹴りして、相手の攻撃をアズサが防いだ。

「小磯はガキたちの面倒見てて」
「え、う、うん!」

邪魔されないように子供たちは小磯健二に任せ、攻撃を仕掛けていく。
といってもあたしが得意としているのは合気道だ。
指先に小さなプラグを仕掛け、触れる度じわじわと彼のデータを盗み取る。
そうすればこいつの正体もわかるはずだ。

「っ…!!」

攻撃を受け流しながらK.Oを狙うが中々思うようにいってくれない。
再びキング・カズマも参戦し、息の合ったコンビネーションで相手を追い詰めていく。
ブブっと相手のアバターが歪み、乱れが生じ始めた。
その異変に気付いた仏像があたしを標的にし襲い掛かってくるが、がしりと両手を掴み拘束する。
バチバチと指先が電気を発し、相手のプログラミングを盗み取っていく。
このチャンスを見逃すキング・カズマではなく背後から襲いかかったが、仏像が力任せにあたしを投げ捨てキング・カズマと直撃してしまった。

「ごめん…!梓」

多少混乱しているキング・カズマとアズサに仏像が立て続けに攻撃してきて敢え無くK.Oになってしまった。
先程まで大歓声を上げていた野次馬たちもしんと静まり返ってしまう。

《K.O!》

甲高いアナウンスが響き、倒れたキング・カズマの腰からチャンピオンベルトが消滅した。
バトルに勝利した仏像が眩い輝きに包まれ、倒れたキング・カズマとアズサの身体が仏像に向かって引き寄せられていく。
大声で叫び、あらぬ方向を指差せば、仏像の動きが停まり指した方向を見る。
その隙に黄色いリスがカズマとアズサごとOZからログアウトした。

「危なかった…」

扉の向こうから子供たちの声が聞こえた。
いつの間にか小磯健二が部屋から強制的に追い出したらしい。

「あのままだったら、君たちのアバターまでアイツに食べられちゃってたかも……」

佳主馬は何も答えなかった。
OZ混乱の真犯人をあと一歩まで追い詰めたのに、結局返り討ちにされてしまった。
OCMチャンピオン、キング・カズマも完膚無きまでに叩きのめされ、その座を奪われてしまった。

「ラブ、マシーン…?」

マイページにアズサが帰ってきて、今までのデータを表示してくれた。
すぐにUSBのデータに移して解読をしていく。

「………人工知能AIって…」

製造場所はピッツバークのロボット研究所。
しかも開発途中実験ハッキングAI。
定期的に侘助と連絡を取り合っていてAIをアメリカ国防総省に売りつけたとか言ってたはず。

「梓さん…?どうかしましたか…?」
「梓!!」

すぐさまパソコンを片付けて納戸から飛び出した

誰か嘘だと言って 
(これの開発者が侘助だなんて)
(名はラブマシーン)


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