もうすぐ、そっちに着く。と書かれたメール文を読んで、廊下で小さくうずくまる。
時間的に子供たちや学生たちはお風呂とか入って寝る準備をしているだろう。

「風邪ひくよ」
「……大丈夫です。」

事あるごとに理一さんがあたしの隣に座って上着をかけてくれた。
宴会というなの夕飯は終わったんだろうか。

「急に抜け出すからびっくりしたよ。」
「…ああいうのは苦手ですから…」
「…………、夕飯を抜け出したのは、侘助の事か…?」

がばりと起き上がって理一さんを睨みつける。
大人たちは身勝手だ、全部。侘助の事もあたしの事も、鬱陶しくって邪魔なら縁を切ればいい。
なのに引き留めようとする。一応養子だから?形だけは見繕うの?

「っ…」

思ったことを彼に言おうと口を開くが、ぎゅっと強く握りしめた上着を理一さんに押し付けてその場から立ち去る。
あそこの大人たちの宴会場を避けるように遠回りして厨房の方を通っていく。

「あのぅ、侘助さんって……?」

厨房の横を通り抜けようとしたら女性陣の声が聞こえた。
思わず足を止めてしまい、彼女らの死角に身を隠す。

「そっか。奈々ちゃんは、会ったことないんだっけ」
「いろいろ複雑なのよ、これが。ねぇ万里子おばさん」
「複雑なもんですか。あれは本家の養子よ、一応。」
「簡単に言えば、大おじいちゃんの妾の子?」

奈々さんはそういう事はあまり詳しくないのか驚いた声を上げた。
なんでこんなことしてるんだ、こんなの気にしないで通り過ぎればいいのに

「昔はよくある話だったのよ。」
「あいつはね、勝手に大おばあちゃんのなけなしの山を売って、そのお金持ち逃げしたのよ。そんでもってさっさとアメリカに逃げちゃったの」

栄さんに育ててもらっておいて恩知らずだと理香さんが憤慨した口調で言い放った。

「養子といえば…あの子もそうよね。」
「あの子って…?」
「梓。確か仁美の養子なの。侘助みたいに妾の子とかじゃなくって捨て子だったのよ。」
「…す、捨て子…!?」
「そうそう、赤子がこの家の門に置き去りにされてたのよねー。」
「お母さんが可哀想だからって渋々引き取って、仁美さんがその時期流産しちゃっててね。私が育てますって仁美さんに渡ったのよ。」

こんなの聞いたってただ自分が傷つくだけじゃんか。
ぎしりと音を立てながら厨房を離れる。
もう自室に籠ろうかと思いながら部屋に足を進める。

「ねえってば、侘助おじさん!」
「…もう子供は寝ろ。」

前から夏希と侘助が歩いてきて、夏希があたしに気づくと飛びついてきた。

「梓!!おじさん、侘助おじさん!」

すごく嬉しそうに笑いながらあたしに言い、バチリと侘助と目があい思わず逸らした。

「まだおじさん独身で彼女いないんだって!」
「…ふーん、あたしは寝るよ。」
「ええ!!寝ちゃうの!?どーせまた部屋にずっと引きこもるんでしょ?だったら私と寝ようよ!」

ね?いいでしょ!?と訴えてくるがきっぱりと断って抱きついている腕を引きはがす。

「暑いのは嫌いだからさ、クーラーの効いた部屋にいるよ。」
「じゃあさじゃあさ!私が梓の部屋で」
「だめ」
「なんでよー!」
「あんた部屋汚すからダメ。無理。来るな。」

あからさまな陣内家の拒絶。
ここにいるだけでも気持ち悪いというのに、同じ空間で過ごすなんて死んでも無理だ。
侘助の横を通り過ぎるが何も言わず、自室に入って内鍵をかけた。

肩身が狭い
(……、梓…?)
(全てを否定している目)
(昔の俺を思わせる顔だった)


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