不機嫌面のサイトーの指先にいたぶられるという、珍事件が起こって数週間。あの時の顔が嘘だったように今日もサイトーは下品に笑っている。

ただ、少し変わったことといえば、呼び出される回数が異様に増えたことだ。執拗な呼び出し音という名の着信は、毎時間のように鳴る。

けれど、呼び出されたからといって何をされるでもさせられるでもなく、本当にただ呼び出されるだけだ。

それからサイトーの周りにいた連中が減った。

俺の記憶が正しければこの前俺に暴力を振るった奴らだ。サイトーがあの日言った言葉を思い出す。


「お前は俺のだろ?」

ジャイアニズムもいいところだ。きっとそれは所有欲で、無機物なモノへと向ける言葉と変わらない。

それでも俺はほくそ笑む。どんな形であれサイトーは、俺に少なからず執着心を持ち始めている。

逃げられなくなればいい。

サイトーが俺に与えた熱の熱さ分、俺がサイトーに向ける熱から逃げられなくなればいい。俺に依存して依存して熱に溺れてしまえばいい。溺れきった時、俺は逃げ出す。サイトーという熱を切り捨てて逃げ出してやる。俺が少しずつ与えた熱がサイトーに深く傷を残せばいい。



そんな事を考えながら歩いていれば、一つ上の学年の教室についた。放課後になってからの呼び出し。教室にはサイトーが1人だけ。最近は毎日これだ。


「………おせー」

教室の中に一歩踏み入れれば、案の定飛んでくるのは不満気な声。

最近は不機嫌な顔ばかりを見ると思う。謝罪してサイトーの荷物を受け取る。どうせ今日も家まで送らされるのだろう。

そう思い歩き出せば掴まれる胸ぐら。またかと思う。壁に押し付けられたかと思えば、俺の顔から足までを指でなぞって行く。

きっと、自分以外が付けた傷が無いかを確かめる為。

サイトーの執拗すぎる指の動きは、ジャイアニズム故だけでは無い気がする。自分の友人が俺を傷つけた事に罪悪感なんてものを感じているのかもしれない。この男がそんなもの感情を持ち合わせているとは到底思えないが。

それでも少しずつ俺の前に姿を表す気持ち悪いサイトーの良心のようなもの。

そんな生ぬるいものはいらないのだ。

執拗な指から解放される。サイトーを睨みつければ、顔を殴られる。


それでいい。


早く捨ててしまえ。


怠惰な良心など






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