「…チビスケをよろしくな」
「…?いきなりなによ、リョーガ」

幼なじみであり、今や世を駆ける戦国武将の越前リョーガ。そのリョーガとの稽古中にリョーガが刀を下ろし私にいきなり言った。リョーマを、弟をよろしくと。

時は戦国時代。その中心にいる武将。いつ死ぬか分からない、いつ肉親と離ればなれになるか分からない。だから幼なじみであり忍である私に『もしも』の事を思って願いを託したのだろう、と私は解釈した。

「縁起でもない…」
「…ははっ!まぁ何かあったらよろしくな!」
「はいよー。てか私がリョーガに追い付くまで死なさないからね」
「いつ追い付くんだか、あははっ」
「うっ、うるさい!」

その後少しだけ稽古を続けたあと、リョーガが兵士と話があるから、というその一言で稽古が終わった。リョーガは稽古の終わりに私の頭を軽く叩いて『何時も通り』に「ありがとう」と言った。それは稽古の相手をしてくれて「ありがとう」だと思っていた。いや毎回そうだった。あまりにも『何時も通り』すぎて私はリョーガの思い気付けなかった。

その日は何故か中々寝付けず、空気を吸うため外へ出た。

───────────

「馬…?」

地面には馬の足跡が残っていて、まだ新しい。時間は午前二時、こんな時間に誰が何の目的で何処へ向かったのだろうか。 

そんな事を思っていると向かいにある山が燃え始めた。いや、遠くからでも分かる…戦が始まったんだ。────ちょっと、待って。こんな時間に戦?おかしい…おかしい。この馬の足跡は、まさか

向かいの山と言えば、いまや越前隊と敵対している最大の敵がいる。いや、まだまだこちらの勢力の方が弱い。こんな夜中が仕掛けたからといって無駄死だ。 

「リョーガに伝えなきゃ!」

全く、…自分の隊の奴等が勝手に馬へ乗って出撃をしている事を知らない戦国武将なんて、どこを探したってリョーガしかいない。と少し笑いながら急いでリョーガの部屋へ向かった。

───────────

「リョーガ…って、リョーマ?」

リョーガの部屋にはリョーマが居てリョーガの姿がなかった。私の顔を見たリョーマはバツが悪そうに顔を逸らした。 

違う、違う。馬へ乗って無駄死に走ったのはリョーガじゃない。そう思ってリョーマに問う。


「リョー、ガ…は?」
「……っ」
「!」


私は理解した。あの馬の足跡はリョーガが付けた物だと。リョーガが無駄死に走ったと、

私は慌ててリョーガの後を追おうと思ったがリョーマの手が私の手を掴み動きを制止させた。


「っ!離しなさいよ!」
「…もう、間に合わない」
「!なんでよ!部下が少しくらいいたらまだリョーガは無事でしょう?!」

「…一人」
「……え?」
「…っ、一人で行った」
「!」


なんで一人で行かせたの?!私がそう言うとリョーマは珍しく取り乱しながら言い返した。 


「あんたを死なせたくないからだろ!」
「なんで私なのよ!」
「あっちの敵大将があんたを狙ってたからに決まってんだろ!」


『だから何で私なのよ!』と私が言うとリョーマは私の胸ぐらを掴み上げて荒々しく言った。

「まだ分からないの?!アイツがあんたを好きなのが敵大将にバレた、弱味がバレたからだよ!」

「ど、うゆう…?」


リョーマの言うアイツとは、つまりリョーガなわけで。リョーガが私を好き?それが敵大将にバレた。リョーガの弱味が私?


「あんたが生き延びる為には…っ、アイツ自体が死ぬ、しか」


つまりはこうか。リョーガが死ねばあちらは満足。リョーガを殺す為にリョーガの弱味である私を人質にして殺害しようとする。それを止めるにはリョーガが死ぬのが手っ取り早い解決策。いや、それしかない。

「うそ、よ…」

私はペタリとその場に座りこんで外に見える赤く燃え上がる山をただボンヤリと見ていて、目の前のリョーマは俯きながら泣いていた。




小さな頃から私の目標はリョーガだった。毎日毎日、リョーガに追い付く為に嫌いな稽古も頑張った。いつかリョーガに似合う女になるために、いつもリョーガの背中を追い掛けていた。だけどリョーガは毎回私より一歩先に居た。そして結局、追いかけたはずの背中に追い付く事なくリョーガの生涯は終えた。








END
素敵企画「花の下にて。」様へ提出 
『第二幕』

越前兄弟大好きです。素敵企画ありがとうございました!


  090911
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -