まさか、みょうじが白州先輩のことを好きだなんて思いもよらなかった。だって、みょうじと白州先輩は真逆だからだ。
コイツは簡単に言えば沢村の女バージョンみたいなもんだ。…頭は沢村と違って良いけどな。元気でガサツでうるさくて、明るくていつも笑ってて素直だ。関西弁がキツく聞こえてしまうのが残念なところだけど。本人は関西弁バカにすんなや!って怒ってくるけど。
そんなみょうじが夏が終わって新チームが始動しようとしているときに手紙を渡してきた。「一生のお願い!白州先輩に渡してくれへん?」
誰がどうみたってその手紙はラブレターだった。まさかコイツがラブレターだなんてらしくもねえ。四月からたった数ヶ月の付き合いだがみょうじのことをある程度知ってるつもりだった。俺の予想するコイツならば白州先輩を呼び出して告白しているだろう、当たって砕けろ、押してダメなら押してみろ、な感じだ。
しかし本人に聞けば「知らないやつに好きなんて言われたら困るだけやろ!」って…マトモなこと言ってんじゃねえよ。
そんな訳で友達(と俺は思っている)の頼みを聞きいれて白州先輩に渡してやった。白州先輩はすっげえびっくりしてて、そんな顔を見るのははじめてで誰かに自慢してやりたいくらいには貴重だった。しかし数日後、白州先輩から「これ渡しといてくれ」と手紙を渡されたときはその時の白州先輩並みにびっくりしていただろう。
あれからもみょうじと白州先輩の手紙のやり取りはずっと続いている。もちろん俺を介して。一度白州先輩からいつも済まないと謝られたが俺を介してじゃないとこの2人は手紙のやり取りをすることが出来ないのだから仕方が無い。相手の靴箱にいれるとかすればいいんだろうけど2人は変わらずして俺に頼んでくる。きっとそんなこと思いついてもみないんだろう。俺がそれを提案しないのは、渡してくるときの2人の顔をみてると面白いからだ。いつも相手からの手紙が返ってくるのをわくわくしている子どものような目でみてくるからだ。
今日もみょうじからの手紙を預かる。コイツは何かを作るのが好きで、毎回とても凝っている。今回のはバットやボール、グローブが画用紙でつくられたのが手紙の裏にはってある。しかも手紙はホームベース型の手作りだ。前回は折り紙でつくられたうさぎだった。折り紙のなかに手紙を書いたらしい。可愛らしすぎてこれを渡す俺の身になれよとちょっと思った。それに反して白州先輩はいつも白の封筒だった。中身の便箋は横書きのシンプルなやつらしい。聞けば聞くほどみょうじと白州先輩は真逆だった。
そんな真逆な2人が交わったらどうなんだろう、ってちょっと楽しみに思えたから俺はこれからもこの2人を見守ろうと思う。
真逆のふたり
「金丸!これよろしく!」
「おー」
「金丸、頼む」
「了解っス」
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