「なぁなぁブソン!」

「あー?」

「今週の土曜日遊びに行こうぜ!」


何を言い出すかと思えばお前は…。
 読んでいたバイク雑誌から目を話さず、俺が座っているソファーの後ろから身を乗り出す霧斗の言葉に耳を傾ける。


「行くって…何処に?」

「あー…ビリヤードとか?」

「は?…お前、出来るのか?」


ダーツくらいしかやった事ねーくせに。


「昨日火影兄と緑兄がやってんの見たから多分多分大丈夫」

「何で多分二回言うんだよ」

「いや、結構難しそうだったから…」

「なら言うなよ」

「やれるよーになりたいんだよ俺は」


拗ねた様に口を尖らせる霧斗に小さく笑った。
 どうせまた、兄貴たちにからかわれたのだろう。いつもの事だ。ダーツや麻雀だって、兄貴達にからかわれて頼まれた俺が教えてやった。
 コイツの兄である紫苑とは幼馴染みだったので霧斗ともよく会っていたし、今じゃ弟のような存在だ。

本当の弟は一応いるが、今は大学であまり気が進まないと言っていた(だがただ聞くだけだからと紫苑に誘われた)講義を聞いているだろう。


「なー。行こうぜー」

「正しくは教えてくれ、だろ?」

「うっ…」

「何も兄貴に教えてもらえばいーじゃねぇか。燈月も結構上手いし」

「火影兄達だと子供扱いするし、燈月兄だとセクハラ紛いな事されるもん」

「もんって…(あぁでも有り得そうだな)」


 特に燈月なんかの場合は。ホストという職業なだけに下関係やら口説き文句やらは通だもんな。


「だから頼むブソン!」


パンッと両手を合わせてお願いする霧斗を見て、俺が断れるはずもなく。


「仕方ねぇな」


溜め息混じりに了解してやれば、パァッと顔を明るくさせる。…分かりやすッ!

 まぁ、何かを教えるのは俺の役目だという優越感に浸れるし霧斗と一緒にいる時間も確保できるし。
…あ。一応バショウの奴にも声掛けねぇと後でシバかれる。


「サンキュウなっ!」

「あぁ」


クシャクシャ頭を撫でると、霧斗はくすぐったそうに笑った。

 この笑顔も全部、俺だけに向けられればいいのに。

コイツを我が物に出来たら、後は何も要らない。
 自分だけに頼ってくればいいのにと思う。

…願ったところで、叶う確率は低いが。






願うことに意味はなく