今日はいつもより早めに仕事が終わり、帰って来たのは日付が変わってしばらくしてからだ。
 疲れてシャワーを浴びる気にもなれず、スーツを着たままソファーへ仰向けに倒れ込んだ。

あー…スーツから酒と女のキッツイ香水の匂いが…。ホストっつーのも楽じゃねぇなぁ…。
 そんな事をぼんやり思っていると、リビングのドアが開けられる音がした。
紫苑か緑でも起きたのかと思いつつも、起き上がる気にはなれない。


「あれ?燈月兄帰って来てたのか?」


あらま。この声は…。
 上半身だけを起こせばタンクトップにジャージ姿の可愛い弟である霧斗が立っていた。

お前…マジ細いよな。


「おかえり」

「おう、ただいま。どした?」

「ただ喉かわいたから来たんだけど…。来てたなら電気くらいつければいーのに」

「電気代の節約だよ霧斗ちゃん」

「昼間暑い暑い言ってエアコン愛用してるくせに」

「その部屋に来てゲームしてるのだーれだ?」

「…取りあえず上だけでも脱げば?皺になるから」

「誤魔化したよこの子ってば」


ま、そこが可愛いからいーけどな。
 脱いだ上着を受けとりハンガーにかける霧斗はよく出来た弟だと思う。
あー…この暗がりに紛れて襲っちまいてー…。


「燈月兄も何か飲むか?」

「いや、酒飲みまくって来たからいい」

「シャンパンコール?」

「どっから覚えたの霧斗ちゃん」

「ブソンが言ってた」

「(あんの金髪グラサン野郎…!!)」


俺の可愛い霧斗に余計な知識を与えやがって。お前も女遊びが激しい事をバラスぞ。


「燈月兄、部屋戻らねーの?」

「気力ないから今日はソファーで寝とく。お前はちゃんと部屋で寝るんだぞ?」


頭をくしゃくしゃ撫でながら言えば、小さく頷いて返事をする。
 あー…ホント可愛いなぁお前は。店で相手してる常連達より可愛い。


「風邪ひくなよ燈月兄」

『あぁ、大丈夫だ』

「ん。じゃあおやすみ」

『おやすみ霧斗』


いつか、俺のものにしてやるから。
 好きにさせるから。


お前はまだ、何も気付いていないけど。








ターゲットはまだ何も知らない