愛とは貪欲なものである
前に、誰かが言っていた。
アレは確か、去年辺りだったかな。
学校の帰りに、オッサンがそんな事を言っていた気がする。
台の上で長々と演説するオッサンの言葉なんて、オレにとってはどうでもよかったけど
隣りにいた霧斗が珍しくじっとオッサンを見ていた。
興味あるのかと聞いたら「あのオッサン、ヅラっぽい」なんて、演説とはまったく関係ない内容の答えが返ってきた。
けど霧斗らしい、オレは小さく笑った。
その後、一週間振りに霧斗と手を繋いで家まで帰ったのはハッキリ覚えている。
照れ臭そうにゆっくり手を出して「手、繋ごうぜ」って小さな声で言って。
オレが嬉しくて大きく頷いて握ったら、嬉しそうにはにかんで。
霧斗の行動一つ一つは覚えている。
道端に止められていたバイク見て「かっけー」呟いた事とか。野良猫を発見して前にも見た奴だと言っていた事とか。
オレだけを見てくれればいいな、なんて思った事とか。
今日はたまたま一人で帰っていると、去年つまらない演説をしていたヅラ疑惑のオッサンが道行く人々にうっすい本を渡していた。
相変わらず、何かの宗教の勧誘をやっているらしい。
ま、オレには関係ないか。
それより早く帰って霧斗とゲームしてぇし。
「貴方は、愛は貪欲だと知っていますか?」
オッサンの前を通り過ぎようとした時、そんな問い掛けを投げられた。
足を止め、横に顔を向ければあのオッサンは胡散臭い笑顔を浮かべている。あ、やっぱりヅラっぽいなこの人。帰ったら霧斗に教えてやろー。
「愛は貪欲なものであると知っていますか?」
同じ問い掛けをするオッサンに、オレはニヤリと笑みを浮かべて言葉を返す。
「じゃあオッサン。何で愛は貪欲か知ってるか?」
「え?」
「それはな―――」
俺の言葉は、後ろにある道路を走り抜けたトラックの騒音と重なった。
だけとオッサンには届いたらしく、呆然とした顔をしている。
「それと、ヅラ変えた方がいいよオッサン」
そう言って、オレは振り返る事なく歩き出した。
オレが去った後、
「なんて愛に貪欲な少年なんだ」うざったい事をオッサンが言っていたなんて、知る由もない
生き物なんて皆、貪欲だろ?
愛に貪欲な子供