見知らぬ高校生らしき青年達から逃げていた霧斗は路地に隠れ身を潜めていた。
「くそー…ムカつくなぁ」
せめて自分が中学生なら相手を出来たかも知れないのに。
通り過ぎて行く青年達を警戒している霧斗は、後ろから近付いて来る人影に気付かなかった。
「――ッ!?」
突然、背後から伸びてきた手に口を塞がれ、驚きに目を見開いた。片腕で体をホールドされ、抵抗したくても動けない。
「残念だったなガキんちょ」
背後で、自分を捕まえている青年が嫌な笑みを浮かべている気配がした。
そうして連れて来られたのは古そうな廃工場。
薄暗い中に入ると、中央辺りで解放され地面に投げ捨てられた。
「いってぇ〜…」
腕や膝を擦りながら起き上がる霧斗をぐるりと囲むのは見知らぬ青年達。
それを知りながらもつい、ごく●んみたいだと呑気に思う霧斗。
「なんなんだよお前ら!?つーか誰だよ!?」
「うるせぇクソガキ!テメェが奴等の弟だって事は分かってんだよ!」
「やつらって誰だよ!」
「ごちゃごちゃうるせぇな!」
「っと!」
立ち上がった霧斗に苛立った様に青年が拳を振るが、それを回避し彼は逆に青年を殴った。
それを合図かのように数人の青年が自分達より年下の小柄な少年に襲いかかる。
抵抗する霧斗だが、やはり小学生と高校生。力に差があり、呆気なく近くあったコンテナに突き飛ばされ、背中を強打した。
「いぃっ!?…まじいてぇ〜…!!」
痛む背中を擦りながら涙目になり、目の前に立ち並ぶ青年達を睨む。残念な事にその睨みは彼等に効くことはないのだが。
「なぁ、よく見りゃあコイツキレーな顔してんな」
「あの佐野火影と佐野紫苑の弟なんだろ?」
「遺伝だろ。…ちょっくら遊んでやるか?」
「ギャハハハ!いいなそれ!」
「ちっせぇしほっせぇし、本当に弟かよ」
「確かめてみりゃあいいじゃねーか」
ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、一人の男が霧斗に近付く。
コンテナに背中をびったりくっつけ、体を強張らせる霧斗。
何を話しているのかは分からないが、本能で危険を感じ取ったのだろう。
「楽しませてくれよガキんちょ」
「なっ…はなせよ!さわんな!」
「気が強いこって。今時は生意気なガキしかいねーからなぁ」
「うるせー!はーなーせー!」
両手首を押さえ付けられ足だけでじたばたするが、足までも片足で押さえ付けられ動くに動けなくなってしまった。
目の前でニヤニヤ嫌な笑みを浮かべる青年達に背筋がぞくりとし、本格的にヤバいと脳が赤信号を出している。
「やだっ…!はなせよ!いやだぁ!!」
「何してんだ、テメェ等」
地を這う様な低い声が、この場にいる者全員の耳に届く。青年達が後ろを振り返り、霧斗の肩に顔を埋めていた男や服を脱がそうとしていた男も動きを止めて振り返る。
そこには、赤い眼に怒りを宿した、オレンジ頭の青年が一人。
片手をズボンのポケットに突っ込み、明らかに不機嫌そうな顔をしている。
その青年を見た青年達からサーッと血の気が引いて顔が真っ青になった。
「火影兄!?」
何でここにいるのか疑問に思ったが、先ほど電話した事を思い出し納得する。
「そいつから離れろ」
「ヒィッ!!」
「は、はい!!」
慌てて霧斗から手を離し離れる二人。それを見た火影はバッグを適当な場所に投げ捨て、青年等を見据える。
「テメェ等、ただで帰れると思うなよ」
それを聞いて数人が悲鳴を上げたのは言うまでもない。
「………」
オレンジ色の髪をした兄が、数十人の青年達を次々に倒していく様子を霧斗はただ呆然と見ていた。
その場にいた青年達がすべて地に伏せた頃には所々に赤い液体が付着していた。それをつくった原因の青年にも、いくらか赤が付着している。
白いシャツに返り血がぐっしょり着いていて、洗濯しても落ちる確率が低そうだ。
「大丈夫か霧斗?」
座り込んでいる霧斗に歩み寄り、しゃがんで問い掛ける火影に抱き付いて頷く。
「ふぇっ…火影兄ぃ〜っ」
強くしがみついてくる弟の頭を優しく宥める様に撫でてやる火影。
たった一人であれだけの数を相手にここまで耐えられたのだから上出来だ。
「今度からはこんな事ねぇから安心しろ」
「…っく…ん!」
泣きながらも強く返事をした弟に小さく笑みを浮かべ、まだ幼い軽い体を持ち上げる。
「帰るか」
「うん。…あ!」
「あ?」
「ランドセル…どっかに投げてきちゃったや…」
「…お前ってホント最高だな」
まぁでも今回ばかりは仕方ないだろう。
怒る事はせず、自分のバッグを肩にかけて取りあえず工場を後にするのだった。
この後、緑から帰宅途中で霧斗のランドセルを発見したと報告を聞かされるのを、まだこの二人は知らない。
広がる鮮血
(うわぁああん!!まいランドセルぅうー!!)
(うるせー)
(ランドセル投げるか普通?)
(まぁ、非常時やったから)