生き物というものは、無くしてから大事なモノに気付く

 だが、快楽に溺れている事にはなかなか気付かないらしい


なら、俺はアイツに溺れている事に気付かないのだろうか?





「緑〜!!」

『どうしたんだキリナ?』


たまたま屋敷の廊下を歩いていると聞き慣れた声がすると共に後ろから小さな衝撃を感じた。

 首だけで振り向けば、そこには愛しい主人の姿が。


「聞いてくれよ〜。毒舌トカゲが俺をいじめるんだぜ〜?俺トレーナーなのに…!!」

『また火影と喧嘩したのか』


いつものこと。
 火影も、本当はキリナが可愛くて仕方ないくせに素直じゃない奴だ。

そんな事を思いながら背中に顔を埋めるキリナの頭を優しく撫でてやる。


『お前達が喧嘩するのはいつもの事だろう?』

「違うって!今日はマジで火影が悪いんだ!」

『その台詞は一昨日も聞いたぞ』

「だってあの毒舌トカゲがー!!」


ちくしょー!
 叫びながら腰に回した腕の力を強めるキリナに小さく笑う。

喧嘩するほど仲が良いというが…。微妙な所だな。


「緑ー。気晴らしに散歩しねー?毒舌なしで」

『別に構わないが…。理由は渕水に説教されたくないからだろう?』

「うぐっ…!!」

『気持ちは分かるがな。じゃあ行こうか?』

「おう!」


ニッと無邪気な笑顔を浮かべるキリナに自然と顔が綻びる。


『(あぁ…俺は本気でキリナに惚れているな…)』


 そして、キリナに溺れていた。

何故なら、ただ一緒にいるというだけで満たされて頼られると必ず手を差し伸べるから。

 彼の笑顔も行動もすべて、愛しく感じるから。

いつからかは分からない。
だが、確実にキリナに惚れ、溺れている。




生き物というものは、無くしてから大事なモノに気付く

 だが、快楽に溺れている事にはなかなか気付かないらしい


なら、俺はアイツに溺れている事に気付かないのだろうか?

 いいや。俺はちゃんと気付いた。いつの間にか、彼に溺れているコトを


だが、このまま溺れてしまっても、沈んでしまっても構わないと思った



 それは、思考回路がおかしくなっているからなのか、


 それとも――――――




いつの間にか溺れ沈んでいた

(アイシテイマス)
(だから)
(溺れ沈んで上がってこれなくてもいい)