面倒臭ぇ。
そんな事を頭の中で呟きオフィスの壁にある時計に目をやれば午後2時を指していた。
相棒の銀色から溜まっている書類をやれと言われてから五時間は経っている。最初は数十センチもあった書類の山は、数センチの高さになっていた。
一応、俺もやれば出来るという事だ。
だが、まだ書類が残っていると思うと溜め息を零さずにいられない。
「随分片付いたじゃないですか」
コーヒーカップ片手に、書類処理を命じた相棒が感心したように言う。
そりゃあ五時間もやればなくなるだろーよ。
「半分くらいなら手を貸してもいいですよ?」
「あぁ、じゃあ頼む」
残っていた書類の半分を手渡せば、相棒は小さく笑った。
「何だよ?」
「いえ…。貴方がこんなに真面目に書類処理をするのは珍しいなと思いましてね」
「あぁー…。まぁ、いつでも動ける様にしておかねぇとな」
水色の髪をした少年を迎えに行く役目が、自分たちにはあるのだから。
「今ごろ七つ目のバッジを集めたんじゃないですか」
「強いからな、アイツは」
なんてったって仮にもカントーチャンピオン。そしてホウエン四天王制覇。
R団頭領にも勝利をし、ルネシティでは古代伝説ポケモンの暴走を止め世界を救った。
まだあんなに幼い子供が、だ。
「バトルでは強いですが、頭は弱いですけどね」
「ガキだからな、アイツ」
ちょっとした事で本気になったり、からかえばすぐ突っ掛かって来る。
表情はコロコロ変わるし、見ていて飽きない。
何故か、一緒にいると落ち着く。そんな奴だ。
だけど、アイツは風の様に掴めない存在。何処か一ヵ所に長期間いることはあまりなく、次々様々な地方へ行って旅をする。
そんな事もあるせいなのか、たまに会えるその時が楽しみになっていた。
早く会いたい。そんな事まで思ってしまう。
「さっさと終わらせちまうか」
「そうですね」
流れる雲の様で、吹き抜ける風の様で、誰にも掴めない存在。
その存在を愛しく感じてしまう俺は、どうやらかなり疲れているらしい。
流れる雲
(気晴らしに後でメカでもいじるか)
(ブソン、キリナから迎えの連絡ですよ)
(あぁ、分かった)