聖なる夜の過ち―1
『えっ?クリスマスイブ??』
「うん。くるみはその日予定ばあると?もし無かったら一緒に過ごさん?」
『うん!もちろん!あ、でもテニス部で集まったりするんじゃないの?』
「いや。本当はそぎゃん話が出とったんだばってん、一氏が激怒したったい。多分、小春と二人で過ごしたかったんやなか?」
『小春……あぁ、テニス部の!』
「そ。坊主頭たい」
第16話
聖なる夜の過ち
『ねー、蔵兄。クリスマスイブってテニス部のみんなで集まらないんだ?』
11月のとある日。
私は千からクリスマスイブに一緒に過ごさないか聞かれて、二つ返事でOKした。
けど、気になる事が1つあって。
「せやで。本当は集まろかーって話も出てたんやけど」
『ふふっ、一氏先輩が激怒したんでしょ?千がいってた』
「そうなんや。おっそろしい顔しよったで。ほんで、クリスマスイブがどないしたん?」
そう。
そういえば忘れていたけど、私たちって家族になって初めてのクリスマスを迎える訳で。
もしかしたら家族でホームパーティーとかするのかな?と、千と約束した後から思ったのだ。
それを聞くと「いやいや、余計に母さんたちは二人きりの方が喜ぶんやない?」と蔵兄が言ってたから大丈夫みたいだけど。
そっか。部活もホームパーティーもないのか。
そしたら蔵兄はやっぱり杏ちゃんと過ごすのだろうか。
「くるみも、千歳とクリスマスイブ二人で過ごすんやろ?」
『うん、そのつもり。えと…蔵兄も杏ちゃんと?』
「せや。くるみ、ちゃーんと門限守るんやで?兄ちゃん許さへんからな?」
じとーっとした目でこちらを見てくる蔵兄。
まーたそんな事言って。
とんでもないシスコンだと思う一方、そうやって気にかけてくれるのが凄く嬉しくて。
ついニヤニヤしちゃって、慌てて蔵兄に言い返した。
『な、なによー!門限ちゃんと守るよ!蔵兄こそ、ちゃんと門限守ってね?』
ただの軽口だった。
てっきり私は「当たり前やん!」と言ってくれるものだとばかり思って余裕すら感じられたと思う。
けど、蔵兄の返す言葉は信じられないものだった。
「すまんなぁ。俺、その日は帰らない予定なんや」
ズキン、と胸が一気に傷んだ。
え?え?イブの日は泊まりってこと?
『え、杏ちゃんと…お泊まりするんだ?』
そう聞くと蔵兄は少しビックリした感じで見てきてから、ふんわり笑った。
「ま、そんなとこやな」
『!?』
あまりのショックで頭が真っ白になってしまって。
「はははっ、なーんてな。そこは『なんで私に門限あるのに蔵兄はないんや!』って突っ込む所やろ〜。ほんまはその日の夜はばあちゃん家に行って………て、あれ?」
蔵兄の最後の言葉なんて全く頭に入ってこなくて、フラフラと自分の部屋に戻る私。
「おーい、くるみ??まさか本気にしたんかな………ま、ええか」
まさかの勘違いだという事は知る由もなく、私の胸に重い鉛みたいなものがズシンとつっかえて取れなくなってしまったんだ。
(蔵兄と杏ちゃん。そこまで進展してたんだ、、)
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