千の事だけ―1


『せーんっ!約束してたお弁当、作ってきたよ』

「くるみ、早速作ってきてくれたと?ありがとねぇ」

『えへへ、早起きして頑張ったんだよ』 

「ははは、くるみ、ばり好いとうよ」

『せ、千っ!!皆の前でそう言うのやめてってば//』

「ごめんごめん、つい口から出てきてしもうた」

「「…………………」」


第15話
千の事だけ



千兄と付き合い出してから4ヶ月が経ち、季節は秋へと変わっていった。
私たちはお互いの呼び方も「千兄」から「千」に、「くるみちゃん」から「くるみ」に変わり、お付き合いもかなり順調に行ってると思う。

実は学校中でも私たちカップルは結構注目されていて、しかも“四天宝寺名物ほのぼの仲良しカップル”とまで言われてしまうほど、公認のカップルとなってしまったのだ。

夏休み中はテニスの大会とかもあったんだけど、後半からは大会も終わって休みが多くなったりして。
その休みの間にデートを何回かしたり、一緒に楽しい時を過ごした。

その度に、「好き」という気持ちが少しずつ心の中で積もっていってる様に思う。

だけど――…

「なんやくるみ、早起きして随分張り切ってるなと思っとったけど、千歳に弁当作ったん?ほんま千歳ばっかり贔屓して、兄ちゃん凹むわ」

『なんでよ、蔵兄だって私が作った料理とか食べてるでしょ?』

「いやいや、ちゃうねん、お弁当とかはまた別やん」

『蔵兄だって杏ちゃんに作ってもらったりしてるくせに。デートの時とか』

「いやまぁそうやけど、くるみの弁当も食べたいやん?」

『……そう言うの、ほんと狡い』

そう、消え入る様に呟く。

千に対する想いは間違いなく深まっている。
けど、蔵兄に抱いている恋心をやっぱりなかなか消す事が出来ないでいて、私は少し焦っていたのだ。

千からとても良くしてくれている。
まだ蔵兄に対して想いを断ち切れないでいる私のそばで、何も言わずに包み込む様に待っていてくれてて、私の意思をいつでも尊重してくれて。

(早く。早くもっともっと千の事、好きにならなきゃ)

そういう風に思うこと事態、何か違ってるのに、私にはそれが分からなくて、ただひたすら焦っていたんだ。

「コラ、蔵ノ助。私のお弁当だけじゃ不満だっていうのかしら?」

そう言って杏ちゃんが半眼になって、じろりと蔵兄を見ると、蔵兄が慌てた様に杏ちゃんの頭を撫でて弁解した。

「ははは、堪忍してな杏。もちろん、杏の弁当は格別やで?」

「もう、口が上手いんだから」

『蔵兄サイテー』

「せやからスマンて」

そう言ってふわりと笑い合う蔵兄と杏ちゃん。
しっかり信頼しあっていて、何も言わなくても通じ合っている、そんな2人。

蔵兄と杏ちゃんとの関係は、私の届かない次元まで先を行っていて。

私の心は、その度に軋んだんだ。

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