一大決心 − 1
世の中におる血が繋がってない兄妹っちゅーのは皆、どないな距離なんやろうか?
ある程度年を取ってから突然出来た異性の兄妹の事を、ほんまに家族と思えてるんやろか?
屈託なく笑いかけてくれるあの娘の事を、俺は胸を張って“大事な妹”だなんて言ってきたやろうか?
………正直な話すると。
俺はくるみの事を友香里と同じ様な“妹”には思ってこなかった。
否、そう思おうと努力したねん。
せやけど、どうしても思えへんかったんや。
俺にとって、くるみは大事な妹やなかった。
いつの間にか、“大事な女の子”になってたんや。
(……て、何考えてんねん俺は。アカンやろ普通に考えて。今がイレギュラーな環境やから、それが新鮮に感じて、好きとか思ってしもたのかもしれへんのに)
そんな風に、ここ最近ずっと悩んでて、けど答えは出てこなくて。そんな中、俺の目の前に現れたのは元恋人の杏樹やった。
昔…確かに俺達はお互いに気持ちを残したまま別れた。もう二度と逢えないなんて思っとったし、しばらく俺は恋愛する気になれへんかったのを覚えている。
それが、2年前。
まさか、こんなにも早く再会するだなんて思ってもみなかった。杏樹を見た瞬間、あの頃の思い出が一気に鮮明に甦ってきたんや。
けど………
(…何で、好きだった気持ちまで思い出せへんねん)
あんなにも愛しく思った彼女の事を、何故か今は冷静に見ていられる自分がおって。
代わりに義理の妹に、こんなにも胸を揺さぶられるなんて。
(あかんて。くるみは妹やん。俺が想うべき女の子はもっと他にも居るハズや。そしてそれは杏樹ちゃうんか?)
すると真っ暗だった視界の先に、一人の女の子の後ろ姿が見えた。あれは……杏樹?
一歩、また一歩とその後ろ姿に向かって歩み寄る。
せや。それで良い。
くるみへの想いなんて、そのうちすぐに消えてなくなる。そしてすぐに杏樹への気持ちも、思い出すだろう。まぁ、杏樹自身が俺の事、まだ好きでいてくれてたらの話やけど。
せやけど俺は、こうでもしないと…ずっと間違ったままや。せやから…
「………杏樹」
そう言って、彼女を背中から抱き締める。
思いの外リアルな感触がして、仄かに風呂上がりのシャンプーの香りがした。
瞬間────
「杏……」
『ち、違うってば!!』
そんな怒号と共に、ドンっと胸を押し返される感覚がして、────目が覚めた。
目の前には、風呂上がりのくるみの姿があって、辺りを見回すとそこはリビングやった。
あれ。俺、いつの間にソファで寝てたん?
ちゅうか、何かくるみの様子が変なんやけど。
「くるみ?どないしたん?ごっつ険しい顔しとるで?」
『……そんな所で寝てたら…風邪、ひくよ。あと、ご飯の用意出来てるから、あっためて食べて』
「あぁ、すまん。おおきに」
そう言うと、くるみは何かを堪える様な表情で急いでリビングから出て行った。
その時俺は全く気付いてなかったんや。
今、くるみがどんな気持ちでいるのか。
俺と杏樹をどんな風に思っていたのか。
もし、この時俺がちゃんと理解っていたら、俺達はこんなにも遠回りしなかったんやないか。
ともあれ、それからと言うもの、くるみの俺に対する態度が急に変わってしもたんや。
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