転校生 ー 1


『蔵兄ー!お弁当持ってきたよー』

「おおきに、くるみ。どや、今日も一緒に昼飯食うか?」

『食うー!じゃあ心にも伝えておくね!』

「良かった。ほな、また後でな」


ジメジメとしてきた6月の始まり。
GWの一件を境に、私と蔵兄との仲はより深くなってきた様な気がする。
まぁ兄妹愛ですよねって言われたらそれまでなんだけれど。

私は登校して教室に行く前にテニスコートに寄って蔵兄のお弁当を届けることが日課になっていた。
更に最近なんと心と蔵兄、謙也先輩と財前くんの5人でお昼を一緒に食べる様になっていて、学校での蔵兄を知っていくにつれて、私の蔵兄への想いは募っていく一方なのです。

「何か最近、くるみと白石先輩、良い雰囲気やなぁ?」

そんな風に心から冷やかされる様にもなって、嬉しくて「絶好調ー!」だなんて調子に乗ってみたり。
だから思いもよらなかったんだ。
この後、意外な「出逢い」と「再会」が、私達を待っている事に。



第9話 転校生


「そういや謙也さん。部長は謙也さんの事、下の名前で呼んではりますよね」

「せや!白石は親友やからな!」

「親友なら何で謙也さんは部長の事を下の名前で呼ばないんすか?まさか親友って思ってるのは部長だけなんやないですか」

「どアホ!そんな訳ないやろ!おお俺やって白石の事親友て思って……」

「せやったら何で下の名前で呼ばないんですか。あーあ、部長かわいそー」

「わわわ分かったわ!ちゃんと下の名前で呼ぶっちゅーねん!今まで悪かったな、く、く、蔵ノ……介」

「…………謙也。分かったから無理すんな。財前に遊ばれてるだけっちゅー事に気付きや」

「財前んんんんん!!!」

今日も始まりました。
財前くんの謙也先輩イジリ(笑)
みんなで一緒に空き教室でお昼を食べるのが日課になっている今日この頃ですが、それはイコール財前くんの謙也先輩イジリも日課になってしまっていると同義である訳で。
面白すぎて、先輩でありながらも「財前くん、もっとやっちゃえー」なんて思ってしまう私はやっぱり駄目な後輩です、財前くん並に心が真っ黒です。
でも謙也先輩はその人柄の良さからなのか、笑って見ている私達はおろか、財前くんにまで「しゃーないな」と白い歯を覗かせていて、もう本当に癒されるんだ。

そんな楽しい時間を蔵兄や心達と一緒に過ごす事が出来て、隣で蔵兄が優しく笑っていて、毎日楽しいなぁーなんて暢気に考えていた時だった。


「!!」

『………っ、蔵兄?』


さっきまで隣で笑っていた蔵兄の表情が一変、急に険しい顔で慌てて空き教室から出て廊下をきょろきょろと見渡したのだ。
それはまるで誰かを捜しているみたいで。
その行動によって他の皆も不審そうに蔵兄の様子を伺っていた。
廊下の先を見つめている蔵兄は哀しそうな表情をしていて、瞬間、私の胸にチクッと鈍い痛みが走った。

『蔵兄?どう……したの?』

「…………そんな筈ない…か。スマン、何でもあらへん」

そう言いながら哀しげに微笑う蔵兄。
うそ。何でもなくないハズなのに。
絶対、何かあったハズなのに。

無理やり作り笑いをしながら再び席に着いてお弁当を食べ始める蔵兄を見て、私の中に嫌な予感が渦巻いた。そしてその予感は消える事なく、次の週の月曜日、見事に的中してしまったのだ。

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