嵐の行方- 1
「何や部長から市原の料理は旨い旨い聞いてたんに。夕飯カレーとか手抜きにも程があるやろ」
『むかっ!』
「市原にはギリギリ食事だけ期待してやってたのに、よくその期待裏切れるな」
『う、うるさいから!大体カレーだって食べたいって言う意見があったから作ったのにそんな言い方───』
「楽なものでええよっていう遠慮やろ。ほんまに簡単なメニューに飛びついてどないすんねん」
『もう!本当、財務くんやだっ!』
「安心せぇ俺もお前が嫌や」
『むっかつくーーー!!』
第7話
嵐の行方
「はは、くるみちゃんと財前は仲良くて羨ましいばい」
あれから買い出しから帰った後、急いで夕飯作りに取りかかった。
さっき出た意見でカレーが良いって声があったからそれを作ったのに見事に財前くんに罵倒されてしまい。
もう、本当に財前くんやだっ!
一時期は優しいかもーとか思ってたけど、やっぱ意地悪だよ!!
結構かなり本気で怒っているのだけれど、千兄には仲良しに見えるらしい。微笑ましそうに私と財前くんを交互に見てとんでもない事を言いのけたのだ。
別に仲良しじゃないし!
「確かに仲良く兄妹喧嘩しとる様に見えるわな」
『なっ!』
千兄に続いて蔵兄までとんでもない事を言う。
ちょっと待ってよ、私、
『こんな弟いらないもん!』
「は、ふざけんな。何で俺がお前の弟にならなあかんねん。お前の方が年下やろ」
『それはないよ、蔵兄や千兄はお兄ちゃんって感じするけど財前くんなんて、ただの生意気な弟にしか見えないもん!』
かちーん!
私の放った一言がプライドを傷付けたのか、財前くんの鋭い瞳が私を捉えた。
ふふーんだ!そんな怖い顔したって事実は事実だもんねーだ!
そんな想いを込めて(※本人には言ってません)ワタシも負けじとにらみ返して応戦する。
うぅ…やっぱり怖い。
でも負けないもん!
間違ってないもん!!
すると頬杖をついてニヤニヤしながら見守っていた蔵兄が面白そうに口を挟んだ。
「ふーん。まぁくるみにとっては俺と千歳がお兄ちゃんで、財前が弟で…それで謙也はどないな関係なん?」
その一言でピタリと言い争いが止まる。
謙也先輩?
そんなの、考えなくても決まってる。
「え?急に俺かい」
『もちろん謙也先輩は、い───……』
──……やばっ!!
蔵兄の質問に私は間髪入れずに答えかけて、慌てて口を閉ざす。
実を言うと、私の中での謙也先輩のイメージは犬だ。
もちろん見下してるとか、そういう悪い意味ではなくて、あの屈託のない笑顔を前にしたら皆元気になるから。癒し効果バツグン。
そういう意味で、謙也さん私の中で犬だったりする。
(けど、こは流石に言えないっ!!)
という訳で“犬”と言いかけた後、咄嗟に別の解答を口にする。
『い……従兄弟、かな?兄弟とかより仲良い従兄弟って感じがする……ような、気が…』
これは自分でも歯切れが悪い答えだなと思う。
事実、それを聞いた蔵兄達は「何や微妙な位置やなぁ」と言っている。
でも、とりあえずみんな納得してくれた、と胸を撫で下ろした時だった。
騙されなかった人間がここに1人、ぽつりと呟く。
「市原、今謙也さんを従兄弟やなくて“犬”って言いかけたやろ」
『財前くん、それは言っちゃダメーー!!』
「俺は犬なんかーーい!!」
嘲笑う様に私を見る財前くんと、私の絶叫。
そして盛大にツッコミを入れる謙也先輩の雄叫びがほぼ同時に炸裂したのでありました。
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