プロローグ ー 1


「約束、果たそう。俺、雪恵のこと好きや」


そう言ってくれた彼の為に、私は何だってしようと思った。


〜プロローグ〜


『光くんっ!ごめんねっ、もう少しで準備出来るから上がって待っててもらえるかな?』

「別に、急がんでええから。ゆっくり準備し」


7月7日。
待ちに待った七夕の日は、ちょうど土曜日で、私達は2人で大きな七夕祭りに行く事にした。

夕方に、光くんが家まで迎えに来てくれると約束していて丁度今、定刻どおり玄関先に姿を現した。
だけど私の準備がまだ終わってなくて、さっきまで極限まで高めていたペースを更に加速させる。
光くんとは初めて七夕を一緒に過ごすんだよね。

そういえば毎年短冊に「光くんと七夕を一緒に過ごせますように」ってこっそり書いていたっけ。

11年目にしてやっと願いが叶ったんだ。
そう考えると、すごく感慨深くて。
ついつい準備の方にも力が入ってしまった。

ワインレッドの生地に沢山のお花がプリントされている下ろしたての浴衣は、私のお気に入りだ。
もう高校生だし、去年までの子供っぽいやつとはもうオサラバしなきゃ。
そう思って思い切って大人っぽいものを買ったんだ。

中3の時。
体育の先生が「女の子だしある程度着付けを知っていて損はない」という事で、授業の一貫として一人だけで浴衣の着付けが出来るように教えてくれた。
ダンスの授業という名目で自分達で着付けた浴衣で花笠音頭を踊ったりして。

まさかその知識がここで生かされるとは思わなかったよ。
あの時の体育の先生には本当に感謝です。

一年前の記憶を頼りに何とか浴衣を着ようと試みる。すると意外に覚えているもので、特に苦労する事もなくバッチリと浴衣を着る事が出来た。

うん!
我ながら良い出来かも!
あとは髪を結って飾り付けして。

あぁ〜もう、早く光くんに見せたいなっ。

結局支度が終わったのは、光くんが到着して20分経った頃だった。
急いで部屋を出て、ダイニングで待っている光くんに声をかける。

「お待たせしてごめんなさい!着付けに時間がかかっちゃって…ど、どう…かな?」

そう言って沢山の花であしらったワインレッドの袖をヒラヒラとはためかせる。
そんな私を光くんは一瞬目を丸くして、まじまじと見てきた。

う…。
や、やっぱ変だったかな。
大人っぽすぎたかな。
似合わない…かな。

最初、恥ずかしくて顔を赤くしていたんだけど段々と光くんの反応が怖くなって、青くなっていって。


“やっぱり似合わないのかも”

とシュンとして俯いていると、不意に「ぷっ」という笑い声が聞こえてきた。

え、笑い?
もしかして失笑??

怪訝に思ったのと同時にぽんっと軽く頭に手が置かれる。

「自分、赤くなったり青くなったり忙しすぎや、ボケ」

攻撃的な言葉とは裏腹に、その表情はすごくすごく優しくて。

「似合ってると言ってやらんでもない」


…え?ほ、ほんと?
本当に似合ってるかな?
言われたら言われたで実感湧かなくて、きょとんとしていると光くんが恥ずかしそうに「……可愛え」と言ってくれたもんだから、凄く嬉しくなっちゃって。
思わず光くんの胸に飛び込んで、ぎゅーっと抱き締めてしまった。


『光くん、大好きっ』

「はいはい」


大好きが、再び始まる。

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