かえってきたよ − 1


“…ふっ、うっ、えっく”

“ー…ほら、なくんやない。さいごくらい笑顔でわかれな”

“だ、だって、ウチ…とおくなんて行きたくない。ずっと、ずっと光くんといっしょにいるもんっ”

“なに言ってるんや。とおくへ行くっていっても、一生会えなくなるわけやないやろ?”

“で、でも…っ”

“なぁ、雪恵。おり姫と、ひこ星って知っとる?”

“?あの、お星さまの?”

“おん。長いあいだはなれていても、あえる日を信じて待ちつづけてるんやで?
だから、おれらもおり姫と、ひこ星になればええねん”

“おり、姫と…ひこ星?”

“せや。これから雪恵はとおくへ行ってしまうけど、また逢える日をずっとまってるねん。おとなになって、とおいところまで行けるようになったら、また会おうな”

“おとなに、なったら?”

“おん。そしたら、またずっと一緒にいられるんや。な、雪恵。約束やで。おとなになったら、こんどこそ、いっしょになろうな”

こんどこそ、いっしょに……


ねぇ、光くん。

私、今でもその約束覚えてるよ。

今でも信じているんだよ、

織り姫と彦星みたいに、また、逢えるって。


あれから11年。
高校生になった私は、家族を何とか説得して、単身、大阪へと戻ってきた。

もちろんそれは、引っ越す時に離れ離れになった幼なじみの財前光くんに逢うためだ。


女・泉谷 雪恵。

ただ今帰還です!!


第1夜 かえってきたよ


「雪恵ちゃん?もしかして、雪恵ちゃんやない??」


念願の四天宝寺高校での入学式を今、終わらせた私は、手始めに配られたクラス割のプリントに目を通していた。

引っ越しをしてから一度も会っていないと言えども、お母さん同士で数回、連絡を取り合っていたらしい。

去年の夏に、光くんは四天宝寺高校を受けるという事だけは耳に入っていて。
それを聞いた瞬間、私は密かに同じ高校を受験しようと決めていたのだ。

外部受験の私よりも、四天宝寺中からそのまま上がってくるハズの光くんが落ちる事はないから、志望校を変更していない限り、同じ高校に入れるハズだ。

そう思って、クラス割のプリントに目を走らせて光くんの名前を探していた所に、不意に私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


『、え??』

声のした方に振り返って見ると、確かにそこには何となく見覚えのある顔があって。

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