はなれないで。 - 1
誰かを守る為に
そいつが傷付くのが分かってて
あえて傷付けるのは
果たして正解なんやろか。
それとも、もっと他の答えがあるんやろか。
第6夜 はなれないで。
〉〉財前視点
「ホンマ、雪恵ちゃん大丈夫なんやろか。っちゅうか、財前も平気なん?」
そう言って俺の傷を見るなり「痛そー」目をしかめる美山。
「別に…こんな傷、大したことあらへん」
「…せやけど財前。どっちかっちゅーと“心”の方が痛そうや」
「………、アホ。何でもあらへん。」
あれから。
しばらく俺は雪恵を胸に抱きながら今後の事を考えておった。
やる事は一つしかあらへん。
せやけど、どうしてもそれを実行する気にはなれんくて。
散々迷っていると、遠くから豪快な足音が聞こえてきた。「雪恵ちゃ〜ん!!」との叫び声が段々近づいてきて、ウルサい奴が来おったと思う反面、心の中でホッとする自分もおって。
やってこのままこの状態でいると、どんどん決心がなくなっていくに違いない。
美山から聞かされた部長の伝言によると、今日の所は帰って良いらしく、俺の詳しい処分はまた明日以降決めるとの事やった。
その代わり雪恵を家に連れて帰ってくれということで、俺と美山で今こうして眠っている雪恵を家まで送り届けている訳やけど。
やっとの思いでたどり着いた雪恵の家に入り、起こさない様にそっとベッドに寝かせてやる。
ちゅうかコイツほんま一人暮らしなんやな。
なんでそこまでして四天宝寺を受験したんやろか?
と、その時美山があるものを発見して呆れ半分で俺に視線をよこした。
『…しかし雪恵ちゃんはホンマ一途やなぁ。見てみい、この写真』
そう言って美山が指さした先には見覚えのある写真があって。
それは俺が中学ん時まで部屋の壁に貼っておいた雪恵と俺の2ショット写真やった。
俺は“あの夏”以来、あの写真をはがしてしもたけど……そうか、コイツもずっと同じ写真を持ってなんやな。
そう思うと更に心がチクリと痛み、色んな決心が鈍くなってしもた。
せやけどそれじゃアカンねん。
いい加減、ちゃんとせな。
すうすうと寝ている雪恵の頬にそっと手を添えながら、美山に言う。
「悪い美山。俺、、」
断腸の思いとはこういう事を言うんやろな。
さっきからキリキリと胃が痛いわ。
そんな中、やっとの事で告げた決心に美山は驚いた表情を浮かべた。
「財前。気持ちは分かるけどな。そんなん、雪恵ちゃんが喜ぶと思うてるん?そんな訳ないやろ?」
…ほんまにそうやろか?案外、ケロッとして慣れていくんとちゃう?
なんて、思ってしまう自分はやっぱりひねくれているんやろか。
いや、そうやないねん。
“そうであって欲しい”だけなんや。
「せやけど…もう、こうするしかないねん。俺にはこれしか考えられへん」
「財前…」
「やから悪い、美山コイツのこと頼むわ。」
「えっ!?ちょっ、財ぜっ…──」
俺は最後に眠っている雪恵の頬をひと撫ですると、カバンを持って勢い良くこの家を後にした。
さっきまで晴れておったのに、今は雲行きが怪しくなっておって、パラパラと小さい雨が降り始めていた。
なんや、まるで自分の心の中みたいやん。
ホンマむかつくわ。
雪恵はどんな顔するんやろな。
美山が上手くやってくれればええけど。部長らもうるさく言うやろな。
そんな事を考えると段々とこれからの事が億劫になってきて。
俺は最後に、マンションの下からアイツの家の窓を見上げるのだった。
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