プロローグ ‐ 1


7月27日


『ん〜!良い天気っ!絶好の航海日和ね♪』

「ホント、昨日まで天気悪かったから一時はどうなるかと思ったけど…無事、出発できそうで良かったわ」



誰もが楽しみにしていたであろう、夏休みに突入して、早1週間。

私、遠藤 奏と、親友である松本 怜は、横浜港に浮かぶ豪華客船を目の前にして、期待に胸を膨らませていた。


そう、今日から私たちは南の島へ1週間のバカンスに行くのです。


親友の怜は地主の娘で(要するに、超金持ち!!)、南の島に別荘を持っているとのことで、毎年、夏休みの冒頭にお邪魔させてもらっているんだ。


『ホント、毎年お邪魔させてもらってごめんね、怜。』

「なに言ってんの。私1人で行ったってつまらないだけだし、奏が来てくれてホント助かるんだから。
それに毎年、南の島まで船で連れてってくれてるの、奏のお父さんじゃない。だから、お互い様よ」


そう言って、軽くウインクする怜。



そうなのだ。
実は私のお父さんは、よくクルージングのツアーとかで豪華客船とかを操縦する、いわゆる『船長』をやっていて。

だから今回も例年同様、お父さんの操縦する船に乗って、怜の家の別荘がある南の島に行くコトになっているんだ。


ここまでが『例年同様』。


ついでに言うと、南の島のバカンスに行くっていうのに完全に長袖に日傘を差している怜の格好も例年通りだったり(笑)



だけど、今年のバカンスは例年とは少し違っていたんだ。


それは―…


ちらりと桟橋の方に目を向けると、そこにはジャージを着た同い年くらいの男の子達の集団がわらわらと集まっていた。

いくつかの学校から集められたのだろう、着ているジャージの種類が何種類かある。

ざっと7〜8校ほどあるだろうか。


『ごめんね、今年は行きだけ、あそこの人達と相乗りみたいになっちゃって。
お父さん、急に操縦しなきゃいけなくなったみたいなの』

「あぁ。奏のお父さん、榊グループ傘下の航海士さんだものね。
むしろ、そのお陰で私たち、この豪華客船に乗せてもらってるんだし、逆にラッキーよ」


確かにラッキーだなと、つくづく思ってしまう。
いつもなら、もっと小さい船で南の島まで行っているのだけれど、今年はあのジャージ姿の子達をついでにどこかの孤島に連れて行くということで、何と今年は榊グループが所持している豪華客船で南の島まで行けることになったのだ。

そしてこの豪華客船は、昼過ぎに出航して明日の朝には目的地に着く予定なんだって。



「それに私も榊グループとはちょっとした知り合いだし、あのジャージ集団の中にいる氷帝学園にも知り合いがいるしね」

『氷帝?あぁ、榊さんが監督をしてるっていう学校ね。そっか、そういえば怜、前に氷帝に友達がいるって言って…』

「友達じゃない、決して友達じゃない、ただ知り合いなだけ。たまたま知り合いになった、赤の他人がいるだけ」

『え?ちょ、何ソレ』


そう言って、いつもの『らしくない』焦り方で必死に否定する怜。


なに、そんなに変な人と知り合いなのか(笑)



あれ?そういえば氷帝といえば確か…


「おう、怜、奇遇じゃねぇか。お前もこの船に乗るらしいじゃねぇか?アーン?」

『!?』




「……出た」


急に背後から声をかけられたかと思えば、そこにはグレーのジャージを着た美形集団が、ぞろぞろとこちらの方へとやってきて。

怜のげんなりした顔を見ると、このジャージを着た人達が、氷帝の生徒なのだろう。


しかし、怜がこんな露骨に嫌な顔をするのは初めてみた気がするなぁ。

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