安寧と暗雲 ― 1
「…は?ちょお待ち。今、何て言うた?」
「せやから今日から俺たち付き合う事になってん。そういう事やから、これからも(色んな意味で)宜しゅうな」
『そうそう、そういう訳だから謙也。今度からは謙也の持ち味でもある“空気読めない発言”とかも、場合によってはブチ燃やすんで、そこん所まじでヨロシク★』
「色んな意味で宜しゅうとか、ブチ燃やすとか色々引っかかる事はあんねんけど……まぁとりあえず、おめでたい話やんな!ほんまおめでとさん!」
cace.14 安寧と暗雲
場所は大会会場すぐ近くの旅館。
そこで私達はテニス部の皆に、無事に付き合い出した事を公表した。
にぱっと笑って祝福してくれる謙也の横に、小春ちゃんやユウジが集まって、次々に祝福してくれるのを見て、やっと少しずつ蔵と付き合えたんだっていう実感が湧いてくる。
───そして実感と言えば、もう1つ。
「先輩ら、やっとくっついた訳ですか。まぁここは素直におめでとうございますって言っておきますわ」
『───、光……』
不意に背後から声が聞こえたかと思うと、光がひょこっとやって来て柔らかい顔で祝福してくれた。
と同時に、私の肩を抱いている蔵の腕に少し力が入った様な気がした。
あれ?もしかして蔵、警戒してくれてる?
『光、どうもありがとう。光が後押ししてくれたお陰で、勇気持てた気がするから』
「それなら良かったです。まぁ実際は少し悔しいって言うのもあったんですけど、先輩が幸せそうなの見て、そんな気持ちも無くなりましたわ」
『あ……ぅ……』
どストレートに気持ちを表現する光に、どう返したら良いのか分からず、思わず視線を端に避ける。
やばい。
何でだか、心臓がドクドク言ってる。
私は光の気持ちに応えられなかった。
そして光はそんな私を受け入れて、応援してくれた。そのお陰で私と蔵は結ばれる事が出来たんだ。
そう、それで良かった。
良かった、ハズなのに……。
(ヤバイ、私。今、すっごい顔赤いかも)
思い出す光景は、光のアップ…からの柔らかい唇の感触で。
あの時は色んな想いで気分が高揚していたし、ましてや蔵に振られると思い込んでいたからか、少しビックリした程度で済ませてしまったけど、今はそうはいかない。
やばい。私、光とキスしちゃったんだ……よね。
でも蔵と付き合うより前の話だし、多分セーフなハズだ。
っていうか!何で私、あの時平気だったんだろう!?
今なんて…
(光の顔を見るのが、凄く恥ずかしいのに……)
チラッと光の顔を盗み見るも、バッチリと目が合ってしまって、慌てて目を逸らす始末。
蔵と結ばれて、やっと訪れた安寧。
だけどそれと共に、別の暗雲が私の身に降りかかってくるのだった。
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