伝える − 1


思わぬ知らせが届いたのは大会初日の夕方の事やった。

俺ら四天宝寺は午前中に初戦突破を決め、早々と拠点としている宿へと戻って行った。
夏休み前にやっとレギュラー入りを果たせたんはええけど、やっぱり1年の俺は補欠扱いや。
明日は出られたらええねんけど……

そんな風に考えながら、ウォークマンのイヤホンを耳に入れ、ベッドに転がり込みながら完全に寛ぎ体勢に入った時やった。


「……〜やー!……やでー!!」

宿の1階から微かに聴こえる迷惑な叫び声。
言わずと知れたアホ謙也さんの声や。
何やほんま迷惑なヤツやな。
仮にも先輩なんやから、もうちょい上級生らしい行動出来へんのかな。

尚もバタバタと聴こえる足音と叫び声は迷わずこの部屋を目指しているらしく、叫び声が段々と近付いて来ていた。
…………何や、むっちゃ嫌な予感がするんやけど。


「財前、大ニュースや!!」

バン!といったけたたましい音と共に登場するアホ……やなかった、謙也さんを半眼で一瞥しながらため息をつく。
大ニュースって何やねん。
どうせどっかの強豪がダークホースに負けたとか、誰々が怪我したとかそんな類の話やろうけど。

「何ですか謙也さん、大声で走り回るとか宿の人に迷惑かけるんとちゃいますか」

「それは後から謝るわ!それより大ニュースや財前っ!」

「はいはい、そら大ニュースですわビックリしたビックリした」

適当にあしらいながら再びイヤホンを耳にしようとした時やった。
謙也さんが嬉しそうな顔をしてその“大ニュース”とやらを口にしたんや。


「千郷が、千郷が試合会場に来てんねん!!」

「!」

瞬間。思わず持っていたイヤホンが、スルリと手から滑り落ちた。握力の無くなった手は行き場を無くしてただ変な体勢で固まっておって。

千郷先輩が……来てる?
東京に。
この……会場に…………。


「…………っ!!」

別に考えて動いた訳やない。
ただ千郷先輩の名前を聞いた瞬間…心が、体が、細胞が反応して、俺は一目散に宿を飛び出し、目と鼻の先にある会場を目指して走り出していたんや。


アホ千郷先輩。
今まで何やってんですか。
何で返事返してくれへんかったんですか。
どんな想いで待ってたと思ってんねん。
俺が、どんな想いで……

「そ……んなん、どおでも、ええ。俺は」

早く。
早く千郷先輩に……


─────会いたい。

case 13:伝える


蔵……蔵に謝らなくちゃ。
早く、手遅れになる前に。

そう考えれば考える程焦ってしまって、見る人見る人が蔵なんじゃないかって思えてしまう。
こんなんじゃ日が暮れちゃうよ。

『そだっ、携帯っ!!』

何で早く思いつかなかったのだろう。
今まで放置していたからか、その考えに至らなかったんだ。
震える手で何とか番号を押し、息を整えながらコールをする……けど、どんなに待っても出てくる様子はない。

他の試合とか見てて気付いてないのかな。
ていうか気付いているけど相手が私だから、あえて出てないとか……??

ズキン、と胸が痛む。
もし避けられたりしてたらどうしよう。
そうか、今まで私は蔵達にこんな想いをさせてたのかもしれない。
なのに……なにが部外者だ、関係ない、だ。

『謝らなきゃ……はやく』

そう思って思わずキュッと目を閉じた時だった。


「千郷先輩っ!!」

『……!!』


その声は人混みの中、ひときわ目立って私の耳を捉えた。
この数週間、ずっと私を案じ続けてくれた人。
こんな私に好きだと言ってくれた人。

『ひか……る』

振り向くとそこには、息を切らしながらこちらの方を見て立っている光の姿があったんだ。

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