初めて見る顔 ー 1


私はこの時、全然気付いてなかったんだ。

『よ、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん…』

四天宝寺のみんなが、私の行方を捜している事。
私からの連絡を待っていた事。

────私を仲間の1人だと、思ってくれていた事に。



case 12:初めて見る顔


『み、みんな、久しぶり〜。元気?試合の方は順調?あはは…私も実はね、夏休みに入ってすぐこっちに来てたんだ〜』

「お…おん、初戦は突破したで。まぁトップバッターで出たこのスピードスターの活躍でチーム全体に勢いを「…千郷」……て、白石?」

何故だか何処かぎこちない謙也を遮って、蔵が口を開く。瞬間、私のうなじがゾワッて逆立った気がした。
だって蔵の顔、今までに見た事ない位、凄く凄く怖い顔をしていたから。
こんな顔、初めて見たよ…


「千郷、お前……今まで何してたんや」

『……へ?だから夏休み入ってすぐ東京に来て…氷帝のみんなと会ってた……けど』

「そんな事してる暇あったら何で連絡の1つも寄越さへんのや。俺らがどれだけ心配した思うてんねん!!」

「お、おい白石、」

今まで聞いた事ない位の形相で私に向かって怒鳴る蔵に、心臓を強く握りしめられた様な強い痛みを感じて、恐怖が走った。

え。なんで、だって意味分かんない。
何で蔵がそんなに怒ってるの?

訳が分かんなくなって、すっかりパニックに陥ってしまって思わず蔵の隣にいる謙也に目配せで助けを求める。……だけど謙也は私以上にパニックに陥ってるらしく「ちょぉ、ししし白石、そんな怒鳴らんでもええやんか」とオロオロしていた。
うおぉい、謙也!アホか!このヘタレめっっ!!
そんな蔵の発言に応酬したのは、がっくんだった。


「は?お前何言ってんだ?連絡なんて寄越す訳ねーじゃん、だって千郷は───」

『良いよ、がっくん』

気の強いがっくんの事だ。喧嘩越しになって状況を悪化しかねないと判断した私は慌ててがっくんの言葉を遮る。

『あのね蔵。こっちに来てるって連絡しなかったのは夏休みだし特に用がなければ連絡取らなくても良いかなって思ったんだ。だってみんな部活で忙しいだろうし迷惑かけるでしょ?それに私別にマネージャーとかでも何でもないじゃん。部外者なんだから』

そう言った瞬間、ハッと息を呑んだ。
だって……なんで?蔵も謙也も……なんでそんなにショックうけた様な瞳で見るの?
私、何か言い方間違えた…?


「特に用事がない?部外者だから?千郷、ほんまにそう思ってんのか?もしそうなら…ほんま、失望したわ」

腹の底から絞り出した様な低い低い声は、容赦なく私の心を抉りとって、深い深い闇の中へと落ちていった。代わりに沸き上がる気持ちは、疑念と不安と、そして反発だ。

だって変だよ、そんなの。
私、間違ってないもん。
夏休みに入って自分のやりたい事をしているだけで、何でそれをいちいち報告しないといけないの?
何でそんなに怒ってるの?
何でそんなに失望してるの?

『……待って、蔵がそんなに怒ってる意味、全然分かんないよ…』

「そんなん考える程でもないやろ。それでも分からへんて、どんだけやねん。……行くぞ、謙也」


そう言ってこれ見よがしに目を逸らすと、そのまま蔵は会場の奥の方へと去っていった。

「はぁ!?ちょ、白石!?」

「ええから来いや!!」

凄い冷たい表情で怒鳴られた謙也は、オロオロしながら私と蔵を交互に見た後、「千郷、堪忍」とだけ言い残して慌てて蔵の後を追って去ってしまった。


……ちょ、ちょっと。
本当に…何で?
何でこんな事になっちゃったの……!??



この時、私は全然気付いてなかったの。
夏休み入ってから音信不通になってしまった私を、蔵達がずっと心配してくれていたこと。

そんな中、しばらく私が携帯を見れる状態になかったのを蔵達が知らないこと。

それのせいで、私たちはこんなにもすれ違ってしまったと言うこと。


全然、予想だにもしたなかったんだ。

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