切ない恋に気付いて ― 1
こうなる事なんて、分かっとった。
「好きや、千郷先輩。俺、アンタの事むっちゃ好きや。他の誰にも渡したくない」
けれど、時折見せる千郷の優しさに勘違いしたくなる自分もおった。けど、
「俺、だけを見とって下さい」
さっき、目の前に見えた光景。
財前が千郷を抱き寄せて、放った言葉。
それらが俺の淡い期待を見事に粉砕しよって、宙に消えた。
淡い、恋心と共に。
case 9:切ない恋に気付いて
『あれ?蔵、帰っちゃったの?』
「そんなんよ、急に用事を思い出した言うて」
『そ……っか』
光のウォークマンを1年の教室まで取りに行った後、私は馳せていた。
仲の良い弟で、大好きな友達だと思っていた光からの突然の告白。
まさか光が私の事好きだなんて。
それは正に晴天の霹靂で、胸が妙にざわついた。
無性に、蔵の顔が見たくなった。
それは光に想いを告げられて、少し胸の高鳴りを感じでしまったからで。
だから一刻も早く、蔵に会いたかった。
顔を見て、安心したかった。
私は弱いから。
蔵の事、好きでも、きっと叶わないといった弱気な心の隙間をするりと抜けて、光が入ってきた。
思わずそんな光に、すがっちゃいそうだった。
だから、急いでこっちの教室に戻ってきたのに……
『先に、帰っちゃったんだ』
思わず目線を下に落とすと、小春ちゃんが気遣わしげに顔を覗き混んで来て、言った。
「千郷ちゃん……何か、あったん?」
『小春ちゃん……』
そんな小春ちゃんの心配そうな瞳を見て、さっきの出来事を思い出す。
『光、ごめん。私、やっぱり…』
「千郷先輩が部長の事好きっちゅーのなんて分かってましたし、今更感半端ないっすわ」
『………………、』
「せやけど、俺は諦めませんから。いつか、先輩の心をさらってく。絶対」
『ひか、』
「返事はいつでもええです。せやけど、今は止めてください。もう少し一緒にいてもろて、それで判断して下さい」
『………………』
「ええですね?」
『…うん、分かった……』
そんなこんなで返事は保留という事にして、私達は戻って来た訳だけど。
さすが小春ちゃん。その変化を敏感に感じ取ったらしくて、心配そうな顔で「大丈夫なん?」と聞いてくれた。けど、私はぎこちなく笑って返す事しか出来なかった。
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