合言葉はえくすたすぃー - 1


「大垣さーん?今日、俺ら保健委員の当番…―」

「いやぁん、蔵リン!ワイに逢いに来てくれたんん〜?もーぅ、らーぶっ!」

『浮気か!小春!死なすど!』

「何で大垣が俺の真似してんねん!」


「…………(ガラガラ、ピシャっ!)」

『あっ、閉められた、』


case 3:合言葉はえくすたすぃー


「自分ら、何やってたん?」


とある月曜日の昼休み。
今日から1週間、私は保健委員の当番でお昼休み中、保健室にいなきゃいけなくて。
A組の私はB組の保健委員…すなわち白石くんとペアになって1年間当番をすることになっていた。

そんなんで白石くんはお昼休みに私の所に迎えに来てくれるという事で、冒頭に戻るんだけども。


『…あれ?面白くなかった?』


どうせ来るなら、盛大に迎えてあげようと小春ちゃんと打ち合わせをして、白石くんの登場を今か今かと待ち構えていた訳で。
頑張って、同じクラスでテニス部の一氏くんのモノマネをやってみたものの、白石くんが開いた教室の扉は見事に閉じられてしまったのだ。

もう!せっかく頑張ったのに!

思い返せば思い返す程、腹が立ってきて軽く白石くんを睨みつける。
そんな私を見て白石くんは爽やかに笑って弁解した。


「いやいや、むっちゃ面白かったねん。やけど、大垣さんが想像してたんより違うキャラやったから少しビックリしてな」


そう言いながら、フッと思い出し笑いをする白石くん。

…うーん、まぁ、そういう事なら良いんだけど。
でもあの時、スベッたみたいで凄く恥ずかしかったんだからねー!!
そう思うとやっぱり怒りが冷めなくて私は「とりゃっ!」と小さく白石くんの脇腹にパンチを入れる。
だけど白石くんの脇腹は凄く硬くて、あまり効いてなさそうだった。


『わ!まさかのソフトマッチョ!』

「ははっ、大垣さん、ホンマおもろいキャラしとんな〜。一緒にいて飽きんわ」


そ、それは褒め言葉と受け取って良いのだろうか?
出来るなら私は“お笑い要員”として見られるのは勘弁なんだけどなぁ。


窓の外を見ると生憎の雨で、そろそろ本格的な梅雨の季節が到来するであろう事を告げていて。この季節特有の“もわっ”とした空気が凄く息苦しく感じる。
そんな天気のお蔭で(?)外で怪我をする男子もいなく、お昼休みの保健室は私と白石くんの2人きりなわけで。

…何だか少し、緊張するかも。

そんな中、白石くんは静かに口を開いた。


「もしかして、四天宝寺のノリに無理して合わせてるんとちゃう?」

『……!』

「ホラ、大垣さん、転校してきたやろ?やから色々気ぃ遣って、こっちのノリに合わせとんのかな思て心配しててん」


そう言って顔を覗き込んでくる白石くん。

やばい。この人、さすが。
すごくすごく気が回る人なんだな。


確かに、転校したてなだけあって周りの雰囲気がよく分からなくて、とりあえずその場の雰囲気にのる事が多かったように思う。


……でも。だけどね。

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