ツンツンツンの財前くん - 1
『あ、財前くんだ(笑)おーい』
「…何で人を呼ぶ度に語尾に“(笑)”が付いてんねん」
『いや〜何というかさ、初登場時のインパクトだよね、やっぱり』
「千郷先輩、ホンマ腹立つわ」
case 2:ツンツンツンの財前くん
あれから1ヶ月。
あの一件以来、私はこの生意気な後輩、財前光くんを気に入ってしまって。
こうやって見かける度に、絡んでは嫌がられるというのを繰り返している。
そんな財前くんは図書委員ということなので、私はよく昼休みに図書室にお邪魔している訳なんだけど。
「先輩、友達いないんとちゃいます?昼休みに1人で図書室来るってあんまないですよ」
『いるさいるさ!友達!あのね、金色小春ちゃんって言う子と仲良くなったんだけど、それがもう本当に…──』
「もうええ。その固有名詞聞いたら聞く気なくしましたわ」
そう言って心底面倒臭そうに溜め息をつく財前くん。
そっか。財前くん、小春ちゃんの事知ってるんだもんね。
金色小春ちゃんというのは、私のクラスメートで隣の席の子。
めちゃくちゃ頭良くて頼りになるし、めちゃくちゃ可愛らしい、れっきとした乙女な男の子であります。
彼女?も、テニス部だから財前くんも知っているみたい。
「ほんで?何か用があったんとちゃいます?」
そう言って面倒臭そうに切り出す財前くん。
あはは。本当に遠慮なく面倒臭そうだなぁ(笑)
でも、そういう所も良いよ!
だって…
『すっかり仲良しって感じで嬉しいね』
「面倒臭いっすわ、先輩。さっさと用件話してくれません?」
『…徹底してツンツンツンだねぇ……』
そう言って、一連のやりとりに苦笑いをする。と言うか、ここまで邪険にされると本題に入りにくいのですが……。
だけど財前くんは「はよ言え」とでも言いたい様な目つきで見てくるので、さっさと切り出した方が良いと判断。
出来るだけ笑顔を作って財前くんに話を切り出した。
『ねぇねぇ、財前くん。1つ相談なんだけども』
「なんです?」
『ジャズバンドって興味ないかな?』
「……………、は?」
さっきまで気怠そうにしていた目が、見事にまん丸になる財前くん。
流石に急だったかな?
『んとね、実は大阪中心に活動している有名なジャズバンドがあって、こっちに来たら絶対行ってみたいって思ったのね。で、チケットが2枚手に入ったから誰か一緒に行けたらなって思って…』
両手の人差し指をちょんちょんと合わせつつ、ちらりと様子を伺ってみる。
すると財前くんは心底胡散臭そうな顔つきになった。
え、面倒臭いではなくて胡散臭いっていう反応なんだ。
このバンドはプロではなくてアマチュアだけど、凄く凄く上手であっという間に惹き込まれる音楽を奏でていて。
昔、たまたま東京で公演をした時に侑士に連れてってもらった事があるんだけど、私はすぐにそのバンドのファンになってしまったのだ。
元々ピアノを習っていたからジャズに興味があったって言うのも理由の1つなんだけどね。
「…ジャズバンドて、先輩、ジャズとか聴くんですか?」
『えと、多少は』
「何で俺に頼むん?」
『最初、小春ちゃんに頼んだんだけど、その日は都合つかなくて。で、困ってたら財前くんが音楽好きだって聞いたものだから』
そう言うと、財前くんは「あのオカマ」とぼやいて盛大に溜め息をついた。
やっぱり困るよね?
同い年ならともかく、ちょっぴり先輩特権使っちゃってるし。
そう思って『やっぱり良いよ』と言おうとした時だった。
「まぁ、ええですけど」
そんな答えが聞こえてきて。
『ほんと!?』
嬉しさのあまり、目をキラキラさせて念をおす。すると財前くんは“やれやれ”と言った表情で続けた。
「ジャズとか、別に嫌いやないですし」
まさかのOK頂きました!
やった!本当に嬉しいよ!!
『ありがとう!じゃあ詳しい事決まったらメールするね!それじゃぁ!』
「え、あ、ちょっと…」
そう呼び止める財前くんを無視して私は風の様に図書室を出て、教室へと走って行った。
もちろん、小春ちゃんに報告するためだ。
「……メールとか、アドレス知らんやん」
そんな財前くんの呟きを知らない私は、後に再び出向いて聞くハメになったのである。
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