放蕩少女 ー 1


私、バカだ。

俺は千郷の事、むっちゃ好きや。他の女子なんて見向きもせえへん。
せやけど千郷はそうでもない。俺の他に財前っちゅー存在がチラチラ居る。それが………辛くてな


光とのキスは、蔵と付き合う前だからセーフとか…そんな訳ないじゃん。
思えば私が光と一緒にいる時……
スイーツキングダムの時や誕生日パーティーの時とか、いつも蔵は悲しそうな顔をしてた。

「俺のことも、ちゃんと見て」

って言いたい様な、でもそんな事絶対口に出せないような、そんな表情。

信用されてない…というのは思いの外、私の心の奥底にズシンときて、それが私に息苦しさを与えていた。

cace.17 放蕩少女


「先輩、こんな所にいたんスか」

『………光、』


蔵が立ち去ってからどの位経ったのだろう。
泣きに泣いて涙が枯れてきた頃、光が姿を現した。

「今頃ウザいくらい浮かれポンチになってるんやろなて思ってたんに、部長の機嫌がむっちゃ悪かったんで。何してはるんすか、アンタら」

『………………』

半眼になって問いかける光にそっぽを向いて無言で涙を拭う。
すると今度は、ハァと面倒臭そうに溜息をつきながら私の隣に腰をかけた。

「……機嫌が良かったり悪かったり、むっちゃ面倒臭いんすわ部長。何があったか知りませんけど先輩がちゃんと部長の手綱握っといてもらわんと困るんですわ」

無機質な声で淡々と言う光に段々と腹が立ってしまうのが私の悪い所だと思う。
そんな光にそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言ったんだ。

『………バレてた』

「は?」

『キスしたコト。光と』

そう言うと、さすがに目を大きくして驚いた様子の光。
「さよですか」と小さく言ったきり、黙り込んでしまった。

さよですかって、何なのさ。
あたかも部外者ですみたいな姿勢は。
蔵が機嫌悪いのだとしたら、私だけじゃなくて光にも原因があるんだからね。
私たちの問題なんだからね。

そんな子供じみた言い訳が頭の中を反芻する。
だけど、それだけじゃなくて。
そんな言い訳の中に、少しだけ、頭の隅に叫んでる声が聞こえるんだ。

“これは光のせいじゃないよ、私の問題だよ”って。

だって蔵はキスの事に怒ってた訳じゃなかったもの。
私がこの前、キスを咄嗟に拒んでしまった事とか、私の中に光がチラチラいるのが哀しいって、
そう…言ってただけなんだもの。

だから光に責任なんて1つもないんだって。
頭の奥底で、叫んでる私がいる。
……けど、今の私にはそんな余裕なんて微塵もなかった。
少しでも、責任転嫁が出来る相手を必死になって探していて
それで蔵に許してもらおうだなんて思ってる浅はかな自分がいた。

そんな自分にも腹が立って、頭が可笑しくなりそうだ。

「………先輩?」

しばらく沈黙を続けてる私を気遣ってか不審に思ったのか、光が問いかけながら、そっと腕を私の顔に伸ばした瞬間だった。

『触らないで!!!』

「!!」

咄嗟に出てしまった言葉と共に、パシッと光の腕を払う。

あぁ、駄目だ。
こんな事しちゃ絶対ダメ……
だけど…どうしても、止まらないよ。

『光と…関わると……蔵が悲しむから…』

全部自分のせいじゃん。
自分の態度があやふやだったから、蔵に信用されなかっただけじゃん。
なのに、光のせいにするなんて卑怯だ。

『蔵を悲しませたくないから…ごめん、光』

何言ってんだ、私。
今度は蔵のせいにして光から距離を置こうとするだなんて。

『もう……光とは話さない』

そう言い残して、全力疾走でその場を後にしたんだ。

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