選べない ― 1
「おーっす、桜!今日も部活……て、は?何でお前がいるんだよい?」
「ごめん丸井。俺も駅まで一緒して良いかい?」
『ご…ごめんね』
「…………まあ、別に良いけど…」
act.14 選べない
最近、俺は絶好調だ。
相変わらず部活も楽しいし、天才的プレーにも磨きがかかってきている。それに、何だかんだでクラスも楽しい。
これを絶好調というのであれば、たかが知れているかもしんねーけど、それでも俺の心は充実していた。
(…去年の今頃は、そんな気分じゃなかったしな)
ふと脳裏に甦る萌の泣き顔。
“ごめんブン太…もう私達、終わりにしよう?”
泣きじゃくって、何もかもを…俺さえも拒絶していた萌の姿。女のくだらねー嫉妬のせいであの日、俺たちの関係は終わった。
あの時の俺は好きな女1人守れない弱い自分に腹が立って、そんな状況に追い込んだ女共に腹が立って、一緒に頑張ろうとしなかった萌にすら失望していた。
あんなに好きだったのに。
何があっても、絶対守ってやるって思ってたのに。
結局、何も出来ないで終わった自分の無力さを実感しただけの秋。
あれから萌とはしばらく気まずい状態が続いたけど何とか元の様に話せるまでにはなった。
……けど、もうお互いにそんな感情はない訳で。
(俺はただ、もう2度と萌には辛い想いをして欲しくねえ。早く良いヤツ見つけて、俺がダメにしちまった分、楽しんで欲しいだけだ)
そう思いながら、ちらりと隣で歩いている桜と佐伯を盗み見る。
そこには気まずそうに横にいる佐伯と話している桜の姿があって。
なぁ、桜。
お前はどうなんだよ?
佐伯との事は、過去の話なのか?
それとも今でも好きなのか?
つか昨日佐伯が家に泊まったって、何でだよ?
(……あれ。絶好調とか思ってたけど、何か違う感じ?いや、昨日までは本当に調子良かった訳だし)
突如として降りかかった心のモヤモヤの原因を考えてみると、どう考えても1つしか思い当たらねー。
(桜と……佐伯だ)
この二人を見てると心ん中がざわざわして、みっともねーくらいに胸が軋む。
昨日、桜の名前を呼ぶ佐伯を見た時、感じた。「あぁ、これはヨリを戻すつもりで来たんだ」って。そんでもって桜はそんな佐伯に揺れている様だ。
(……昨日、最後まで言えていれば……)
桜の手を取って、言いかけた言葉。
それは単純な言葉で、俺の気持ち。
気になってしかたねーんだ、桜の事。
もっと一緒にいたいし、もっと一緒にいて欲しい。
だからアイツの怪我につけこんで送り迎えなんて事をし出した訳だし。
「それじゃ、俺はここから電車だから。丸井、桜を宜しく頼むよ」
「るせ、誰に言ってるんだよぃ」
いつの間にか駅に着いていて、佐伯はここで俺らと別れた。最後の佐伯の言葉には僅かに挑発的なニュアンスが含まれていて、どうやら俺の気持ちなんてものはお見通しみたいだった。
「それじゃ桜、また来週ね。良い返事を期待してるから」
『……う、ん』
(来週………?返事?これ、まさか…)
意味深な笑みを浮かべて去っていく佐伯を、桜はどんな気持ちで見送っているのだろうか。
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