揺れる想い ― 1
『こーちゃ……なんで?』
そこには、大好きだった元彼が立っていました。
「今日、こっちの方に用があってね。学校終わってすぐに来たんだ。ついでにオジイから桜への届け物も渡さなきゃいけなかったしね」
でもそれは、私の弱さ故に1度手放してしまった想いでした。
『こっちの方に用事って……』
手放した事への気持ちの整理もようやく出来た矢先なのに
「うん、直に分かるよ。それに俺が桜に逢いたかったしね。ハハッ、一石二鳥だよ」
どうして今も尚、私の心を揺さぶるのですか?
act.13 揺れる想い
「……じゃ、俺はお邪魔みたいだから今日はここで別れるわ」
『あっ、ブン太く…』
「じゃなっ、桜」
突然のこーちゃんの登場に戸惑っているとブン太くんは気をきかせてくれたのか、軽く挨拶した後その場を去って行く。
その後ろ姿を目掛けて『送ってくれてありがとう!』と叫ぶと、ブン太くんは振り向かないまま手だけをヒラヒラさせて応えてくれた。
ブン太くん……
さっき、何て言おうとしたの?
凄く真剣な瞳で、何を伝えようとしてくれたの?
トクン、トクンと鼓動が鳴る。
期待と不安。
2つの気持ちが複雑に絡まっている感じだ。
そんな複雑な想いを抱えたままブン太くんが去って行った方を見ていると、不意にこーちゃんが口を開いた。
「……付き合ってるのかい?」
『えっ?』
「丸井と付き合ってるのかい?」
トクンっ……
そう呟くこーちゃんの瞳には悲しさを帯びていて、それが私の心を打った。
何だろう、この気持ち。
そうであったら良いなと思う反面、そうでないし、こーちゃんだけには誤解されたくないとも思う。
あまりにも両極端の想いが胸の内を駆け巡っていて、上手く言葉に表せない。
『……違うよ。実はこの前ね、足を怪我しちゃって。それで治るまでしばらく家まで送ってくれてたんだ。ただ…それだけだよ』
「それにしては、良い雰囲気だったと思うけど」
『誤解だよこーちゃん。仲良くさせてもらってるけど、ブン太く……、丸井くんにとって私は』
そこまで言いかけて、はたと立ち止まる。
ブン太くんにとって私は、何?
ただのクラスメイト?
マネージャー?
それとも…
(萌の…元カノの友達??)
どちらにしろ、ブン太くんの中には“好き”という感情は入っていないように見える。
と同時に初めて、ブン太くんは今でも萌の事を好きなんじゃないかという仮定が頭に浮かび上がったのだ。
「……その様子だと、俺にもまだ見込みはあるって事だね?」
『なっ、』
何でこの人はいつもサラッと爆弾発言が言えるのだろう。そんなの…ドキドキしちゃうじゃない。
「それに今日、桜の家に泊まるんだよ。明日は休みだし、今から帰ると遅くなるからね。実はおばさんにはもう許可もらってあるんだ」
『ええっ!?』
それはもう、まさかの展開。
お願いだからもう、心をかき乱すのは止めていただきたい。
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