赤目の恐怖 ― 1


それは、寒さが厳しくなってきて、冬も間近なんだと実感してきた頃の事だった。

すっかりマネージャー業にも慣れてきて、テニス部の皆とも仲良くなれたかな〜なんて思っていた頃。
多分、私は調子に乗っていたんだと思う。

まだまだ立海のみんなの事、分かっていなかったんだなって痛感したんだ。



act.11 赤目の恐怖


『あ、ブン太くん、おはよう!』

「おーっす、桜。今日も寒いな」

『段々冬がやってきたって感じだね』


木枯らしが吹くアスファルトの上で身を縮こませながら歩いていると、少し先の方に見慣れた赤い頭が目に入った。
間違えようもない、ブン太くんだ。

実はここの所、あまりブン太くんと話してない。
今まで優しかったブン太くんに、何となく壁を感じる様になったのは、いつからか。
でもそれは何故だかわからなくて。


だから思い切って側まで駆けて行って、声をかけたんだ。


思いの外、ブン太くんの受け答えは普段と変わらない、いつも通りのものだったから、私が感じていた壁っていうのはただの思い過ごしなのかもしれない。


(……そうだったら、良いのにな)


と、そこで不意にブン太くんが口を開いた。

「なぁ。お前さ、前に言ってたじゃん?前の学校で付き合ってた奴のこと。それって、佐伯の事だよな?」

『………あ。』


とくんっ、


途端に心臓の音が跳ねる。
それは思いがけず、こーちゃんの名前が出たからなのか、それとも“ブン太くん”の口から元カレであるこーちゃんの名前が出たからなのか。


『そ…か。ブン太くんには前に少しだけ話したもんね。…うん、そうだよ。こーちゃ……引っ越す前は、佐伯くんと付き合ってた』


とくん、とくん


本当に、何でこんなに胸が締め付けられるんだ。


「もうヨリを戻すつもりはないのか?前に千葉に戻った時、すっげー仲良さそうだったじゃん。アイツ今でもお前の事―――…」

『ブン太くんっ』


思わずブン太くんの話を遮る。
何となく…それ以上、ブン太くんの口からこーちゃんの話を聞くのが、少し、辛くて。


『えと……うん、大丈夫だいじょーぶ!この前逢った時に、大分吹っ切れたから!向こうもそうだと思う。だから、この話はもう……』

「そ……か、悪い」

『ううん、こっちこそゴメンね』


そんなこんなで会話が途切れてしまって、若干の気まずさを感じた頃、丁度良く学校へと到着した。
ブン太くんは部室に置いていく物があるからと言って、校門の所で一旦別れた訳なんだけど。

走って部室へと向かって行くブン太君の後ろ姿を見て、私は胸が痛くなるのを感じていた。

……多分、その痛みの理由を私は知っている。
だけど、どうしてもソレを受け入れる事が出来なかった。だって、そうしたら私……


けど、それを嫌でも実感せざるを得ない事件が、私を待ち受けていたんだ。

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