昔語り ー 1
『ええと、何から話せば良いかな。とりあえず、まだ私達が付き合う前の話からするね』
そう前置きをして、私は静かに口を開いた。
一年前の春。
話は小学校を卒業して、晴れて六角中に入学した頃から始まる。
act.9 昔語り
桜吹雪が舞う中、私達は六角中に入学した。
クラス割のプリントを片手に、同じクラスになれた楓と一緒に大はしゃぎしてた一方で、こーちゃんとは別のクラスになってしまって残念に思ったのを覚えている。
いくら幼なじみだと言っても、大きくなるにつれて段々と別の道を歩み始めるもの。
今まで一緒にテニスをしてきたけど、中学に入ったらそうはいかない。
こーちゃんはきっと男子テニス部に入るだろうし、私はというと女子テニス部が無かったから。
だからせめて同じクラスになりたかった。
こーちゃんは、昔から女子達から人気だった。だけど小学校までは
「佐伯くん、格好いいよねー」
「私、佐伯くん好き!」
「私も私もー」
こんな感じで、みんな子供特有の軽い「好き」だった様な気がする。
だけど、中学に入学してからは状況が変わった。
みんな「1人の女」として、こーちゃんに「恋」し始めたんだ。
もちろん、私もその中の1人だ。
だけど正直私は自分に自信がないし、他の女の子みたいに綺麗でも可愛くもない。
だからこーちゃんの事は大好きだけど、恋人になろうとは思ってなかったの。
そんな関係になれるだなんて、夢にも思ってなかったから。
だから幼なじみとして、こーちゃんの傍にいたい、って思ったんだ。
だけど、幼なじみでいる事さえも許されなかった。
こーちゃんの事が好きな女子達にとって、私は邪魔だったんだろう、少しずつ私への嫌がらせが始まったんだ。
そんな事されたのは今まで一度もなかったから、正直びっくりしたし、ショックを受けた。
だって昨日まで仲良く話していた友達が急に冷たくなったから。
…でも大丈夫だった。
それでも楓だけは、ずっと傍にいてくれたのが大きかったのかな。ずっとずっと私を励ましてくれて、すごく心強かった。
『ごめんね。この話、こーちゃんにするような話じゃないかもだけど』
「いや…その辺の話はオレも知っておかなければならない話だよ。ちゃんと受け止めるから、話を続けてくれるかい?」
砂浜に寄り添いながら、真剣な瞳で話の続きを乞う。
まるでそれが自分の責任であるかのように。
…違う。違うよ、こーちゃん。
こーちゃんは悪くないんだよ。
責任を感じる必要はない。
だってこれは私の問題なんだから。
だから、私が受けた虐めについて、自分を責めなくて良いんだよ。
『…、分かった。話、続けるね。』
そういう訳で、私は友達から軽い虐めを受ける様になってしまった。
その事実がこーちゃんにバレたのは、1年の頃の夏…だったかと思う。
女子達の視線が怖くなって、段々とこーちゃんから離れていった。
だけど、それと反比例するかの様に、他の女の子達がどんどんこーちゃんに近付いていって。
…それを見る度に、私の胸は軋んだ。
もう、こーちゃんと前みたいに喋る事が出来なくなる。
こーちゃんにはすぐに好きな女の子が出来て、今度こそ私から離れて行ってしまう。
それがどうしようもなく苦しかった。
とある日の放課後。
日直だった私は、職員室で頼まれた雑用を済ませてから教室へと戻った。
その頃はもう大分こーちゃんとは関わらなくなったから、虐めも少しずつ少なくなってきた頃で、安心した反面、その代償があまりにも大きくて複雑な気分でいたんだ。
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