act. 7 一時帰宅! ‐ 1
『と、いうわけで!私は明日、明後日と帰省するので、部活には週明けから行くことになりました!』
「は?何だよそれ、どういう事だよぃ?」
act.7 一時帰宅!
あの怒涛の全校集会から、早1週間。
5日間の長〜いテスト期間を終え、今日の午後から晴れて部活動が再開となる。
本来なら、この日から私のマネージャー業が始動する……ハズ、、だったんだけれど、突然の宣言にブン太くんと雅治くんは驚きを隠せなかったようだ。
「ほーう、もうサボるとは、なかなか見上げた根性じゃ」
『ちーがーう!ちゃんと幸村くんには事情を話してOKもらってるし、むしろ“行ってこい!”って言われたもん!」
「じゃあどうしてじゃ?真田が問題なんか?」
「?真田?何、何かあったのかよぃ?」
『いや、真田くんが問題っていう訳じゃ…』
全く訳が分からないという様に首をかしげるブン太くん。1人だけ話に入れないのが不服なのであろう、心なしか拗ねたように口先が尖っているように見えて、それが何だか可愛かった。
『ん〜…まあ、大した事じゃないんだけどね…』
…話は1週間前に遡る。
「あの」全校集会の後。
HRを終えて、そそくさと帰ろうとした時だった。
「幸村!さっきのはどういうことだ!!!」
渡り廊下を渡ったあたりで、ふと凄まじい程の怒号が聞こえた。
校舎裏あたりからだろうか?
普段なら気にせず通り過ぎている所だが、怒鳴っている矛先が「幸村」くんとなると、怒りの原因はどうやら自分にありそうだ。
聞こえなかったフリして、やり過ごしたい気持ちは満々だったけれど、いずれは必ず直面することになる訳だし…。
だったら先延ばしにしないほうが得策…だよね?
そう思って重い足を引きずるようにしてその怒号のする方へと近付いていった。
すると、角を曲がった少し先に幸村くんと、黒いキャップをかぶった男の子が、真剣な顔つきで何かを言い合ってる最中のようだった。
(あ…あの帽子の子どこかで。…そうだ、前に柳生くんが教えてくれた真田くんだ)
その表情からすると、私のマネージャー入りの件は正に寝耳に水状態であったらしい。
困惑の表情がありありと見て取れた。
やっぱり、いくら幸村くんが良いと言っても、部員の了承を得ないままマネージャー入りが決まってしまったのはマズかったのかもしれない。
真田くんだって副部長だし、何も聞かされていないのに勝手に話が進んでいたら、そりゃ文句も言いたくなるよね。
昔、マネージャーの事で相当もめたみたいだし。
勢いで受けてしまって、本当に良かったのだろうか?
そんな風にぼんやりと考えながら、二人の言い争いを見ていると、突然真田くんの視線が私の瞳を捕らえて、心臓が止まるかと思った。
「むっ?お前は……」
「!…七瀬…さん」
『えと…すみません、声、かけようとは思ってたんですけど…』
なんて、よくある台詞をしどろもどろに口にする。
むりもない。
だって、まじまじと見てくる真田君の威圧感ときたら、半端ないんだもの。
盗み聞き紛いなことをしていたからなのか、
もしくは勝手にマネージャーになったからなのか、
…はたまた、この両方が理由なのか
真意はどうであれ、明らかに真田くんの視線には不信感というのが、ありありと見てとれた。
そんな真田くんに完全にたじろいでしまって、ちらっと幸村くんに目をみやったけれど、どういう訳か助け舟一つ出してくれる気配はない。
―…この程度の困難は自分1人で切り抜いて見せろということなのか?
うぅ……自分から誘っておいて…。
ひどい、幸村くん。
そうして胸中で嘆いている内に、真田くんが口を開いた。
「お前が、七瀬か」
『…はい。七瀬 桜と申します。えと、、この度は幸村くんからマネージャーのお誘いをいただきました。
微力ではありますが――』
「たるんどるっ!!」
『ひぇっ!』
突然の怒鳴り声に、思わず目を瞑ってしまう。
前に一度、遠くから真田の怒鳴り声を聞いた事があるが、ここまで近距離で言われると迫力満点だ。
―…正直いって、かなり怖い。
ただ、この怒鳴り声は私に対してではなく、どうやら幸村くんに対して言っている様だった。
一度こちらの方に向けた体を再び幸村くんの方へと戻すと、真田くんはまたまた耳が痛くなるような大声で怒鳴りあげた。
「幸村!さっきのは一体何だったんだ!?このオレに一言も相談せずに、こんな婦女子をマネージャーにするとは―…昔、そのせいで部内が混乱したの覚えているだろう!?」
『腐っ……腐女子っ(がーーんっ)!!』
「そっちの『腐』女子ではないわぁぁぁぁ!!!」
『ひぇっ』
「ぶっ…」
どかーん!と、今度は私に真田くんのカミナリが落ちたのだった。(そして何故だか幸村くんは方を震わせて笑いをこらえていた)
本当にもうカナリ怖い。
だけど、いつまでもビクビクしている訳にもいかない。
(どーせもう大目玉くらってるんだしっ…よし!)
意を決した様にキッと真田を真正面から睨むようにして見据える。
「むっ…」
『あのっ…!さっきの全校集会でのことは…みなさんの意見も聞かずに勝手な行動に出てしまって、それで色々騒がせてしまって、本当に申し訳ありませんでした!』
そう言って、ぺこりと頭をさげる。
『萌……吉田さんに聞きました。立海テニス部は以前、マネージャーとのゴタゴタがあった関係で一切マネージャーをとらなくなったって。
だから、こんな転校してきたばかりの私がマネだなんて、おこがましいにも程があるって、思ってました……でも』
「「……」」
真剣な眼差しで私の話を聞いてくれる真田くんと幸村くん。
うん、大丈夫。
きっと、伝わる。
だって、私も真田くんも幸村くんも、こんなにテニスが大好きで真剣に考えているんだもの。
『私、テニスが大好きなんです。私がグリップテープを巻いたラケットで、みんなが笑顔になるのを見るが大好きなんです。それに…」
一気にまくし立てるように続けたあと、ハァと一息ついて、静かに続けた。
『それに…思ったんです。さっきの…幸村くんのスピーチを聞いて。
立海の…全国3連覇に向けての…力になりたいって。
それはとても重い襷だけど、それでも背負って前を向く幸村くんたちの、力に…なりたい…って』
あの時。
ホントに
ホントにそう思った。
高まる周囲の期待を一身に背負って全国3連覇を誓う幸村を見て、純粋に感動し、そして力になりたいと思ったの。
『………でもまぁ、もちろん、前の学校の六角も、おんなじくらい応援するけども』
と、小声で付け加えてみたりもしたが、これが今の本当の気持ちである。
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