act. 5 マネージャーになりなよ ‐ 1
「うっわ、桜チャン。どうしたんじゃ、ひどい顔しとる」
『うぅ…放っておいて…』
act.5 マネージャーになりなよ
不二くんが訪問してきた、その翌日。
私は目の下に見事なクマを従えて、登校してきた。
加えて寝不足の為か、肌の色が土気色に変色し、本来中学生に備わっているハズの肌のツヤや弾力が何一つ感じられなかった。
これには隣の席の仁王くんも驚いたみたい。
横目でチラチラと私の顔色を見つつ、これ以上突っ込んで話を聞いて良いかどうか、様子を伺っているらしい。
そんな仁王くんに気付いてはいたけれど、どうしても構う気になれなかった。
ごめんね、仁王くん。
…“向き合いもしないで、いつまでも意地を張るんだったら、ボクも遠慮しないよ”
そう言った不二くんの言葉が、昨日からずっと頭から離れないのだ。
向き合いもしないで?
それは、違う。
確かに、私はこーちゃんから逃げた。
だけどそれは、“あの問題”にちゃんと向き合って、それで出した結果だ。
“逃げてしまうこと”
確かに、それはズルイ選択だったのかもしれない。
でも、それがあの時の私に出来る、精一杯のコトだったんだ。
(だから…間違ってなんか、ない)
そう結論付けると、それまでの複雑な気持ちを振り払うかのように頭を横にブルブルと振り、背筋をシャンと伸ばして真っ直ぐ黒板の方を見据えた。
だけど、心の中のもやもやは、いつまで経っても晴れないままでいて。
最悪なことに、そのもやもやは放課後にまで続いてしまったんだ。
* * * * * * * * *
『あれ、丸井くん、忘れ物してる…』
放課後、参考書の分からない所を聞きに、職員室まで行っていると、もうすっかり窓の外が夕焼けに染まっているコトに気付いた。
暗くならない内にと急いで切り上げて誰もいない教室に戻ると、そこには大きな荷物が置いてあったんだ。
それは、丸井くんのテニスラケットで。
丸井くんはテスト期間で部活が休みではあるけれど、自主練として朝のみ開放されているテニスコートでの練習のため、テスト期間ではあるけれど、毎日ラケットを持ってきていた。
もちろん、それは丸井くんだけじゃなくて、次期レギュラー候補の面々も皆、一様に同じではあったんだけど。
『ラケット…忘れてっちゃったのかな?』
そう言って、そっとラケットの柄に手を触れる。
見ると、ラケットのグリップテープが若干めくれ上がってて、そろそろ換え時のサインが出ていた。
(誰もいないし…変えてあげよっかな)
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