離れていくココロ―1
「どうした切原!13分台で倒すには随分なロスだな」
「え゛ぇ?」
――全てはこの一言から始まった様に思う。
『あ、赤也くんっ』
目の前で繰り広げられる一方的な試合。
ううん、あれを果たして試合だなんて言って良いだろうか?
関東大会の準決勝で、東京の不動峰中と対戦した時の事だった。
無敗で関東大会優勝を掲げる私たちは、この準決勝では2勝し、次の試合で赤也君が勝てば無事に無敗で決勝に進出出来る試合だった。
「あ、赤也のヤツ。やべえな」
「あぁ。だがしかし…」
事もあろうか試合中に赤目モードになった赤也くんが、相手選手を的にして一方的にボールを打ち付けてポイントを重ねていく。
そんなお世辞にもスポーツマンシップに則っているとは言えない試合運びに私は愕然とした気持ちで見守るしかなかったんだ。
act.21
離れていくココロ
『ちょっと赤也くん!!どういう事!?なんで、あんな試合っ』
「やめろって、桜!今は赤也に近付くなよ?良いな?」
『………っ』
試合が終わった後、急いで赤也くんに詰め寄ろうとするも、赤目モードだった事もあってブン太くんが止めに入ってきて。
私と赤也くんとの間にグイっと入り込む様にブン太くんが体を寄せてきたので、何とか問いただしたい気持ちを飲み込む。
「……後で赤也の事については、ミーティングする予定だから。だから桜は余計な事考えんな。な?」
『……………う、ん』
そう言って優しく私の背中をポンポン叩きながら、私を試合会場の外へと促すブン太くんに釈然としない想いを抱えながら、コートを後にしたんだ。
この試合で立海大付属中は、無事無敗で関東大会決勝に進むという驚くべき結果を残したのだった。
だけど…だけど、こんな結果、どうしたって容認出来るものじゃなくて。
心の底から「おめでとう」と言える様な立派なものじゃなくて。
ふと見ると、会場の奥の方で不動峰の部員達が憎悪の眼差しでこちらをみているのが分かった。
『…っ、、』
一瞬ひるんで、謝罪を込めて軽く頭を下げる。
しかし彼らのこちらを見る軽蔑の目が変わることも逸れる事もなかった。
(崩れていく、音が聞こえる――)
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