同盟成立 ― 1


『真田くん、はい、今日のレギュラー以外の練習メニュー作っておいたから。確認してもらえる?』

「うむ。ご苦労だったな、七瀬」

『あ、ジャッカルくん!頼まれてたラケットのグリップ、直しておいたから。もし違和感あったら言って?』

「サンキュー!恩に着るぜ!」

『それと赤也くん!今日、練習後に日誌を持って病院へ直行ね!面会時間過ぎちゃうから、ダッシュで行ってね!』

「げっ!!オレっすか!?」

『そう、赤也くん。幸村くんから直々に指名があったからね』

「で、でもオレっ」

『もし一人で行けないんだったら真田くんも一緒に行ってもらうけど?』

「やっ!いいっす!オレ一人で十分っすから!」


グッと拳を握りながら赤也くんは言うと、そのままフラフラしながらその場を去っていく。「うーわ、まじかよー、やべえっあの事がバレたのかも!」という独り言が聞こえたけど……まぁ気にしないでおこう。

私は晴れ上がった空を見上げて、深呼吸を1つした。


季節は春。
ぽかぽかときた陽気が心地好くて、暖かい陽射しが心なしか気分を晴れやかにしてくれているようだ。

あの日から……
六角との練習試合で、こーちゃんにサヨナラを言った日から3ヶ月あまりの月日が経った。
そこから何かこーちゃんとの関係に変化があるのかと思えばそうではなくて。

よくメールで近況を報告してくれたり、たまに不二くんと3人で逢って遊んだり、昔の様に仲良くさせてもらっていた。もしかしたら別れた直後よりも関係は修復していると言っても良いのかもしれない。

けどそれは私が気まずい想いをしないようにと言った、こーちゃんの優しさなのは十分伝わっていて。
それが嬉しくて、私はあえてその優しさに甘えさせてもらっている。

そう。六角のみんなとの関係は、特に変わっていない。……変わったとしたら、立海での環境なのだ。



『幸村くん、大会までには治すって言ってたけど…大丈夫かな』

そう。
まず1つ目は部長の幸村くんのこと。
実はあの後、幸村くんが難病で倒れてしまって入院生活を余儀なくされていたのだ。
詳しい話は…あまり話したくなさそうだったから、実はよく聞いていない。

けど倒れた時、幸村くんはかなり絶望してしまった様で、気持ち的に伏せっていた時期があったんだ。
……それはそうだよね。
テニス部も、やっと自分達の代になって、これから全国三連覇を目指して頑張って行こうって誓った矢先の出来事だもん。
気持ちが弱くなっても仕方ない。

でもそんな時、幸村くんの幼なじみの雪恵ちゃんがずっと傍にいて励ましてくれたと聞いて。その甲斐あってか何とか幸村くんも気持ちを前へ建て直す事が出来たって。


「全国大会までには、必ず戻る。だからそれまで、立海テニス部を宜しく頼む」


そんな幸村くんの力強い言葉を胸に、私達はいつも以上に練習に力を入れていた。
だって約束したんだ、幸村くんと。
彼が戻って来るまで、かならず王者立海を守り続けるって。
無敗で幸村くんを迎えるんだって。

だからなのか、新しい学年になってまた1つ夏の大会に近付いた今、立海テニス部は今までよりも良い緊張感で練習に励む事が出来たんだ。


そして、もう1つの変化。
それはブン太くんとの関係だ。

前に私が足を捻挫した事がきっかけで、ぐんと近付いたブン太くんとの距離。
それがまるで嘘だったかの様に、離れてしまっていた。……そう、確か六角との練習試合が終わってからだと思う。

その時私は、ブン太くんが未だに萌の事が好きなんじゃないかって思って、だからそんな恋心を忘れようと距離を取り始めた。
ブン太くんはブン太くんで、何故か私から距離を置くようになってしまっていて。

今じゃすっかり“ただの部活仲間”と言った関係になってしまった。


『……クラスも離れちゃったし、、』


しかも、更に一週間前のクラス替え発表。
見事私はブン太くんと違うクラスになってしまったのだ。同じ部活プラス同じクラスといった状況に、無条件で“近さ”を感じていたのに、そんな特権も、なくなってしまって、本当に遠くの存在になってしまった様な気がする。

『良い機会っちゃ良い機会なんだけどさ』

それでも思ってしまう。
貴方の傍にいたい。
隣に居たい。
近くで見ていたい。

“諦めよう”と“やっぱりまだ好き”の堂々巡り。
いつになったら私は、この見えない迷路から抜け出す事が出来るんだろう?


act.17 同盟成立

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