二人に、さよなら - 1


「どうでも良い訳ねえだろい?でもそれしか方法がなかったんだ!お前らみたいなヤツがいるから駄目になっちまったんじゃねーか!
訳分かんねぇ嫉妬のせいで、こいつらはっ……俺らはっ!!」


その言葉を聞いた瞬間、私の中で全てが崩れ去っていった。
それは、確信したから。

ブン太くんはまだ、萌の事好きなんだと言う事を……。



act.16 二人に、さよなら


「ありがとうございました!!」

異様に長く感じた合同練習は終わりを迎えて、ようやく両校の選手はホッと一息をついた。

そんな中、私は一人で悶々と懺悔をしていて。
実はあの後、練習試合についての記憶が殆どない。
午前は午前で、こーちゃんの告白に応えるかどうか凄く迷っていたけど、午後は聞いての通り、ブン太くんのあの言葉が頭から離れなかったからだ。
当然、失敗ばかりして沢山の人に迷惑をかけてしまって。こればかりは流石の幸村くんも怒った。

「うん。この程度の仕事も出来ないんじゃ逆に足手まといだよね。分かってる?立海テニス部は、お遊びの集まりじゃないんだよ?」

絶対零度の微笑みでそう告げられた時は本気でテニス部追放を覚悟した。……否、その程度じゃ済まされないかもしれない。


(私、本当にバカ。せっかく幸村くんが周りの反対を押しきってまでマネージャーにしてくれたのに。やる事、全然やれてなくて。)

今更後悔したって遅いのは分かってる。
私が今やらなければいけない事は、一刻も早く気持ちに整理をつけて、テニス部の練習を無心でサポートする事なのだ。
その為に私がしなければいけない事。
それは…………



『こーちゃん。ちょっと、良いかな?』


そっと皆から離れて、こーちゃんに声をかける。
すると今まで爽やかな笑顔だったこーちゃんの表情かが一気に硬くなって、哀しそうな笑顔になったんだ。
そんな空気を読んだのか、その場にいたバネちゃん達が「じゃ、俺ら先に帰ってるわ」と言ってその場を後にしてくれて。今、このコートにいるのは私とこーちゃん二人だけとなっていた。

とくん、とくんと心臓の音がやけに大きく鳴り響く中、先に口を開いたのはこーちゃんだった。


「とうとう俺も完全に振られるのかな」

『……なんで、そんなこと言うの?』

「ごめん、意地悪な事言っちゃったね。……でも」

哀しそうに空を仰ぎながら後を続けるこーちゃん。
冬の冷たい風が、そんな私達の間をするりと抜けていった。


「気付いてないかもしれないけど……今日の練習の間、桜はずっと丸井の方を見ていたんだよね。すぐ分かったよ、……俺もずっと桜の事を見ていたからさ」

『!!』


そう……だったの?
私、そんなにずっとブン太くんの事見てたかな?
でもこーちゃん、私の事ずっと見てたって…私、一度もこーちゃんと目が合ってない気がする。

そうか、それは……

(私が…こーちゃんの事全然見てなかったからだ)


何が迷ってるだ。
そんなの、最初から答えが決まってたんじゃない。
それなのに迷ってる振りして、悩んでる振りして、変に期待を持たせて。


(こーちゃんから逃げる様に転校して、あっさり他に好きな人が出来た事…そんな自分を認められなかったんだ)

だから、まだこーちゃんの事が大好きな振りして、未練がある振りして。
私の視線の先にはもう、ブン太くんにしか行ってなかったのに。


消えてく、消エテク、きえてく……

こーちゃんとの思い出が、消えていく。
こーちゃんへの想いが、消えていく……。


『……ごめ、なさっ』


替わりに芽生えたのは、他の人への想い。
ごめんね、こーちゃん。
泣いて謝っても許されないかもしれないけど。
けど、それでもこんな気持ちじゃ告白を受ける事は出来ない。
きっと、こーちゃんを傷付ける。
こーちゃんを痛め付ける。

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