本心―1
「謙也、こんな所におったんか」
キャンパスの裏庭の人気のない小さな広場にて。
そこには小さなベンチが1つだけあって、後は雑草も入り交じった花壇が、申し訳程度あるだけの場所だ。
ここに人がいた事は記憶にないほど隠れ家的な場所で、オレのお気に入りの場所でもあった。
そこでただボーッと座ってる時に白石が声をかけてきた。
「白石……」
ついさっき…
琴音と白金アキラが喋っている所を偶然聞いてしもうて、その内容が何や良く分からん内容で。
「とぼけるなよ。言っただろ、忍足を誘惑してこいって。誘惑した上で捨てて来るまで、お前とは会うのを止めるって」
白金アキラが放ったこの言葉。
それを聞いた瞬間、頭を殴られたようなショックを受けてもうて、何も考えられんくなって、逃げる様にしてあの場を去ってもうた。
せやけど、やっぱり納得が行かへんくて。
ちゃんと分かってるんやで、オレ。
よく財前に鈍いやら何やら言われとるけど、目の前で喋っている相手が後ろ暗い気持ちでいれば、そこにはちゃんと気付く。
やから琴音が今まで俺らと一緒にいた時間は間違いなく琴音にとって居心地がよくて、大切な場所なんやて……そう思ってくれてるのは理解ってるつもりやった。
「琴音ちゃんと跡部くんからな、話聞いたで」
「っ、」
ビクッと身体が反応する。
聞きたい様な、聞きたく無いような。
そんな矛盾した葛藤が、俺のちっぽけな心の中でせめぎあっていた。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、白石が続けて言った。
「琴音ちゃんな、俺らと知り合いになって、仲良くなった事に…別に他意はなかったと思うで」
「お、おん、当たり前や!そんなん琴音見とったら分かることや!」
そう言いつつ、心の何処かでものすごく安心している自分がいるのは内緒や。
しかし俺を見る白石の瞳が何かごっつ哀しげに見えるのは気のせいやろか?
「…まあ、白金アキラは恐らく違う。俺らに何らかのダメージを与えたくて、琴音を使ったのは間違いない」
「ほんま大迷惑な話やな!何の恨みがあって白金アキラはあんな――…」
「せやけど」
「??」
「……なぁ謙也。俺らの掲げてた『勝ったもん勝ち』って、何やったんやろな」
「―――は?」
突然白石からこぼれ落ちたワードに素頓狂な声をあげて聞き返す。
やって、今そんな話してるんとちゃうやろ?
俺らのテニスのスローガンが、何で白金アキラと関係あるんや?
なんで白石は、そないな哀しげな顔をしとるんや?
「あんな、謙也。今まで俺らは、琴音が鬼畜な彼氏と離れられなくて可哀想やって、そう思ってたやんな?」
「お、おん」
「可哀想やったんは琴音だけやなかった。白金アキラも……色んな事の犠牲になった被害者やったわ」
「え、」
「ほんま『勝ったもん勝ち』て。俺らは…どうして何も考えへんかったのやろ」
そう呟いて、天を仰ぐ白石。
その瞳は後悔と懺悔と悔恨の色に染まっておって。
長い間白石と一緒におったけど、こんな顔したのは初めてや。
「…なぁ、白石。何が、あったん?」
その後、俺は白石から琴音と白金アキラにまつわる驚くべき過去を知る事になったんや。
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