素直になれなくて ー 1
「結、一緒に帰らへん?」
『うっさいわ。白石なら他にも一緒に帰りたがる人おるやろ?』
「俺は結と一緒に帰りたいねん」
『ウチはいーやーや!!』
素直になれなくて
中3の秋。
受験勉強に本腰を入れる時期。
やけどウチの通っている四天宝寺中は附属の高校があるから、受験の心配なんてしてなくて、文化祭楽しみやなーとか呑気に考えてたんや。
そんな中、最近ウチの周りで奇妙(?)な事がおこってて。
それはと言うと。。
「白石くん、部活引退してからほぼ毎日来よるな。ええなぁ結。あんなイケメンに好かれてて」
そう隣でぼやいているのは親友の由里。
そうなんや。夏にテニス部の大会が終わって、それを持って白石や忍足ら三年はめでたく引退した…と、同時に何や急に白石がウチの所に来る様になって。
何やねん、急に。
訳分からん。
白石とは二年の時から一緒のクラスで、確かに割と仲良い方やったと思うけど。
やけど別にそんな好きとかそんな感じやなくて、あくまで只の友達みたいな感覚で。
どっちかっちゅーと、同じクラスの吉田さんの方が恋人同士みたいな雰囲気出しとるし。
やから別に由里が言うような事なんて絶対あらへんし。
ちゅうか吉田さん、めっちゃ睨んできてるやん。
おぉー、怖。
大丈夫やで。あんたが心配してる事なんて何もあらへん。
白石とは只の友達なだけやで。
『ないないない。絶対ない。あんなん、只の友達やん。白石はめっちゃモテるから、あいつに気がないウチといるのが楽なんちゃう?』
「何言ってんねん。結といる時の白石くんの顔、めっちゃ優しい表情してんねんで」
『あはは!してないしてないっ!考えすぎやて』
そう笑い飛ばすも由里は「そうかなー」って腑に落ちない表情をしている。
何考えてんねん。
常識的に考えて、学校一のアイドルである白石が、こんなちんちくりんなウチを好きな訳あらへんやん。
ウチはそんな自意識過剰ちゃうねん。
『はいっ、この話はおしまい!さっ、ウチらも帰るで〜』
「はいはい」
やれやれと溜め息をついてる由里の背中を押しながら教室の外へ出る。
夏休みが終わったいうても、9月の大阪はまだまだ暑さがひかなくて。
照りつける太陽が肌をこれでもかって程攻撃してくる。
秋は好き。
だけど、夏が終わるこの物悲しさは一体何やろか。
と、その時やった。
「おーっす、何やお前ら今帰りなん?」
後ろから声をかけられたかと思ったら日直の仕事を終えて職員室から帰ってきたばかりの忍足で。
『あ、忍足』
「せやでー。急いで支度したら、一緒に帰ってあげてもええねんで?」
「はっはっは!浪速のスピードスターに向かって何言うてんねん!10秒で支度したるわ!」
「や、1秒したらウチら帰るから」
「お前ら実は俺と一緒に帰る気ないやろ!?」
そう言って猛スピードで鞄を取りに行く忍足を、ウチと由里は腹を抱えて笑って待っている。
忍足謙也。
白石と並んでイケメンで人気なヤツやねんけど持ち前の残念なヘタレ具合のせいで、そんな風格は欠片もないやつで。
確かに白石はええヤツや。
カッコええし頭もええ。
ホンマに完璧すぎる程、完璧や。
やけど、ウチはどっちかというと忍足の方がええなと思っててん。
あ、もちろん恋愛感情やなくてな。
一緒にいてめっちゃオモロいし、一緒にいて楽なんや。
白石と一緒にいると、どうも意識してしまう。
…別にこれは恋愛感情やない…よな?
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