「ふむ、これで向こうには「調教」と「門番」がいることがわかった。まあ、「影」を思うままに出してくるのに適役と言えば適役だな」

 今日も今日とて机上の会議。事故調査委員会で報告されるのは、ユーリとミーナのニアミスの件。こっちであったことを逐一報告しないとまたいつこないだみたいな抜き打ちチェックに来られるかわからない。それはゴメンだと、必要最低限の情報は上に伝えることにした。
 今日は、アイクとユーリの席が空いている。アイクは議会復帰にはまだもう少し早いし、そのアイクにゴーサインを出すことの出来る医師が今度は寝込み始めたから、何ともし難い状況なのだ。おかげでいち技師に過ぎない俺が医師代わりの仕事をすることになっている今、皆に言えることは身体には気をつけろということだ。

「ルイ、他に誰が向こうについてそうかわかるか?」
「いや、それは出会ってみなければわからない」
「それなら、ここ5年以内に行方不明になった者のリストを洗い出してくれ。生存者は割り出せるだろう?」
「納期は?」
「早急に、だね」
「了解」

 さすがにこの状況でいがみ合っているわけにもいかず、今日は互いに対する毒は出さないという暗黙のルール。だが、この暗黙のルールに他の会議出席者が唖然としているのがわかる。まあ、俺とケイティの間に火花が散ってない状況というのが理解出来ないのはわからないでもない。現に自分でも大きな違和感を覚えている。

「それじゃあ、各班活動報告を。まずは探索班」
「はい。探索班はリッカが少しずつ現場復帰しているということで、マーノの張った電子結界の撤去作業を主に行っている。ただ、先日アイラと遭遇したときにダメージを負ったマーノの目がまだ少し見えにくいという状態だ。以上」
「マーノにはユーリが回復したら診療所に行くよう指示してくれ。じゃあ、次は修復班」
「修復班は探索の張った結界を縫合する作業がメインになっている。アイクもリハビリでカラーストックを作り始めたから、それを使って俺がちょいちょいと結界に彩色している。ユーリから、アイクの現場復帰はもう少し先になるとの報告あり。以上」
「BJ、自分の腕の傷は?」
「快方に向かっている。以上だ」

 先日から、事調委の議会に各班の班長を同席させることに決定した。現場からの報告と、現場への指示が行われないのはおかしいだろうと。情報の共有がなされない組織がどこにあると話し合った結果だ。現に、現場は俺たち事調委が情報を止めていることに不満を持っていた。その不満も解消しないといけないだろう。

「それじゃあ、研究チームを代表して俺から一点」

 席から立ち上がり、話を始めようとすれば突き刺さる視線。

「今日この後、日付が変わるのと同時にブレスレットをアップデートする。そこでのアップデート内容はコアツーエナジーの可視化プログラムの搭載だ。機能の使い方はこのスライドの通り。皆、コアツーエナジーの数値に気をつけるように。特に、行方不明者が対の相手である場合や、仕事上どうしても共にいる時間が限られる場合などだな。現場で特に気をつけるのはナユとマーノ以外だ。班長は以上のことを班員に周知してくれ」
「つーと、俺らは全員っつーことだな。了解」
「まあ、お前はマメにアイクの見舞いに行ってやってくれ。それとナユ」
「ん?」
「リッカも、今はT2をつけているからいいが、これで本格的に現場復帰すればまた本来の活動時間外に班の仕事が入って来るんだ。数値には気をつけるように言ってくれ。それで数値が落ちてるようなら休みを与えるなりして」
「わかった」

 もちろんこのアップデートは自分たちも対象にしている。逆に言えば、この数値がよっぽどギリギリになるまでは互いに会わなくて済むという口実があるだなんて、現場の連中はさぞ思うまい。まあ、俺とケイティも修正班の仕事があるから会わなきゃいけないときは会ってるんだけど。

「他、何かあるか?」
「俺は特にねぇな」
「うちも特に」
「じゃあ、今日はこれで解散。お疲れ様でした」

 議会が解散して、誰もいなくなってからが事調委の議会本番でもある。

「で、ミーナをあっさりと通したと。研究チームのセキュリティに対する意識という物を聞きたいな」
「ラボのセキュリティは万全だ」
「これで情報を全部持っていかれてたらどうするつもりだったんだ?」
「まあ、その時はミーナの持ってる情報をこっちからハックかけて壊す以外にないよな」

 会議中は抑えてた棘も毒も出し放題。言葉では解りにくくても、雰囲気で。

「ったく、施設のセキュリティや構造を考え直す時期に来てるんじゃないか」
「そう簡単に言うけど、資金面だってそう潤沢じゃないんだ。出来ることと出来ないことがある」
「それなら、出来ることからまず始めてもらおうか?」
「それを言うなら、お前だって議長である前にいち技師だろ。セキュリティ云々をこっちに丸投げする前に、自ら手本となるゲートを構築するなり手を打つべきだと思うけど」
「そろそろ時間だ。ルイ、修正だ」
「言われずとも」

 修正班としての仕事の前に、日付が変わったのを確認してから研究チームの技師としての仕事を。全員のブレスレットをアップデートしてやれば、確認できるコアツーエナジーの数値。俺の数値は順調に上がってやがる、癪だけどな。

「よし、行くか」
「指図するな」


(2011/11/06)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -