会議が終わり、そのまま流れでBJと班長同士の会話に入っていた。その内容は、思ったよりも世界の終わりが近付いていたこと、双方の班員に欠員が出たこと、ここ最近の「影」の実体化が人為的だったこと、その他もろもろ。

「で、探索班はこれからどうするんだ?」
「うちにはまだマーノがいる。アイツがいる限り、うちのやることはひとつだ」
「そうか」
「お前はどうするんだ? 相方が戦線離脱して、同じ境遇の縫合師も抱えて」
「まあ、T2に関してはさほど心配はしてねぇ。ただ、問題はやっぱアイクだな。しかも、このままだと俺たちはアイラと戦わないといけねぇだろ」

 「アイラ」は、5年前に姿を消した元天使で、今は悪魔に魂を売った堕天使という身だ。純粋な天使と悪魔は仲がいい。だが、堕天使となれば話は別で、「表」でも「裏」でも忌み嫌われる存在であることに変わりは無い。BJのような、天使と悪魔のハーフという存在とはまた違う。

「なあBJ、アイラだけの意思でここまで急速に2つの次元の融合が進むものなのか? もっと他に、大きな力が加わってるような、そんな気さえする」
「否定は出来ねぇな。あと、アイラの他にも姿を消した天使やら悪魔やらが何人かいただろ、そいつらがアイラ側についてなきゃいいけどな」

 BJが語るのは、最悪のシナリオ。ここ最近の事象の黒幕がアイツだとして、もしこのままアイラが勢力を拡大していけば2つの次元の間に穴が開く速度はどうなるか。

「6人、2班、3ペアで考えるとだ。戦線離脱が2名、双方の班に欠員が出ている。ただ、ペアで考えると唯一まともに動けんのがお前とマーノだ」
「ああ、自覚はしてる」
「もし俺がアイラだったら、次はマーノを狙うな」
「その心は?」
「俺たちの動きを止めるには「影」を見つけるヤツか、それを無力化するヤツがいなくなる必要がある。俺みたいな作業末端の彩色師はまず狙われねぇよ。少なくとも俺なら、お前かマーノを少しの間でも戦線離脱させられれば勝ちだと判断する。ただ、お前は「影」と真っ向から戦えるからな、やっぱ手っ取り早く俺らを潰すなら次はマーノだろ」

 思ったよりも自分たちが追い詰められているのだと気付き、どうすりゃいいんだと溜め息をひとつ。もしマーノが使い物にならなくなったら俺が代わりに探索してやるとBJは言うが、その方法だって決していい方法とは言えないこともうちは知っている。もしアイクがそれを見たらそれこそ倒れそうだ。

「アイラか……うちが知ってる天使だった頃のアイツが持ってた能力を考えると――」
「おう。多分俺も同じ事を考えてるけど、聞いておこうか」
「ああ。ここ最近の「影」の実体化や、明確な意思を持ってうちらを攻撃して来てるのも。アイツの能力なら十分納得が行くんだ」
「俺は正直「表」がどうなろうが知ったこっちゃねぇけどな、こっちまで巻き添え食らうのはゴメンだ。「表」を守ってやる義理はねぇが「裏」は守らねぇと、だろ」

 そう言って煙草の火を消したBJが想うことは? また全てを自分1人で抱え込んでるんじゃなかろうかとは思うけど、うちには何も出来ない。だって、BJは中途半端な同情を嫌うと知っているから。この世界にはそういうヤツが多すぎないか。心配のひとつくらいさせてくれ。
 BJはこっちの世界でも決していい目では見られない天使と悪魔のハーフという身でありながら、己の力のみで今の立場にまでのし上がってきた。周りからの信頼をも得ているにも関わらず、時々こうやって寂しそうな顔をする。

「「表」と言えば、あの子はどうなった?」
「ああ、レインの表だっていうヤツか」
「結界を破ってくるなんて、相当だな」
「俺らはたまに「表」のアイクも覗き見してたから、その彼女であるあの女が多少どういうヤツかは知ってはいるけど……」
「覗きだなんて、修復班は悪趣味だな」
「何とでも言え。でも「俺ら全員」で「表」を見てたんだ。アイクだって、「表」にレインと同じ情報を持った女がいることくらい知ってる。それなのに今このタイミングでショックを起こしたのがわかんなくてよ」

 そしてBJは全ての可能性をアイラに重ねて。これは事故ではなく意図的に引き起こされたことだという可能性だって捨てちゃいけねぇ、と。うちらは自分たちのどうにも出来ないことは全部人の所為にしたがる。それが自然災害だったとしても、その後の対策だったり予防がしっかりしてあればって誰かを攻め立てる。

「BJ」
「あ?」
「……いや、なんでもない」
「ンだよ、らしくもねぇ面しやがって」

 らしくない顔してんのはどっちだ。そう言いかけたのを寸前で飲み込んで。

「アイラに、レイン。アイクにとっちゃ悪い条件が重なりすぎてんな」
「BJ、そっちにカラーストックってどれだけあるんだ?」
「「アイクのストック」はほとんどねぇよ。強いて言うなら、レインが「裏」のメイン調合師だった時代のストックなら多少あるとは聞いてる。あの時みたいな状況なら、「調合師」なんかいなくたって彩色も出来るのにな」
「……それは彩色師としての禁忌だろ」
「それがどうした。当時俺はあの方法で何箇所も結界に彩色してんだぜ? 今更罪も罰も恐れちゃいねぇよ」

 よっぽどうちもらしくない顔をしていたのかもしれない。最悪の場合な、とその言葉に付け加えたBJは新しい煙草に火をつける。甘ったるいコーヒーが飲みたくて仕方ねぇ、と言いながら。

「ナユ」
「ん?」
「わりィ」
「……別に」

 ウソ吐けよ、と不意に抱き締められれば一気に溢れてくる涙。お前のその強がりすぎる部分は、いつまで経っても抜けない悪いクセだと。ああもう、何もわからない。だけど、他の班員のいない今だからこそこの身を委ねるのもありかな、なんて思ってしまうのが自分の弱さなのだろうと。


(2010/07/17)
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