「今日は、アイクは体調不良により欠席だそうだ」

 こう切り出されて始まった事故調査委員会の定例議会。何故かうちとBJも呼び出され、議会が始まる。

「ナユ、探索班の現状はどうだ?」
「如何せんリッカが戦線離脱しているのが痛い。マーノが張る電子結界じゃやっぱり大きな穴には対処できない」
「修復班は?」
「こっちもリッカがいねぇと作業は完全にストップするからな。ここんトコヒマだな」

 6人の流れ作業で塞ぐ穴。誰かが欠けるとあっという間に作業がストップしてしまう。多少なら他のヤツが何かしらカバー出来るけど、さすがに長期間となると辛いモノがある。今現在穴に結界を張る人間がいないということで、無力化した「影」ばかりが積み重なって次元間の穴は開いたままになっている。

「如何せん穴が完全には塞がれないモンだから、どうしても弱い電子結界の部分から次の「影」が漏れ出してくるみたいだし」
「そう、その「影」なんだけど。ナユ、最近の「影」には妙に強い悪意が乗っていると思わないか?」
「確かに、一時期よりはかなり厄介になったとは思っていた」
「その件についてはまた個人的に話をさせてもらうけど、待ち遠しいのはまずリッカ、だよな?」
「ああ」

 せめて縫合まで終わることが出来ればいいんだ。縫合さえしてしまえば穴は塞いだことにはなる。経過が気になるのはリッカの状態、ということで、目でユーリに訴える。

「そう急かすな。大体、完全回復するまで出てくるなとアイツに伝言をよこしたのはお前だろう」
「そうだけど!」
「つーかユーリ」
「どうしたBJ」
「アイクも体調不良っつってっけど、長引かないよな?」
「アイクに関しては本人次第だ。リッカはもう3日もあればこれまでの7割くらいの力は出せるようになるだろう」

 アイクに関しては本人次第。そうユーリが言った瞬間、うちと同い年の連中は天使も悪魔も関係なく何があったかを悟った。突如鉛色に染まった空。それだけここ最近無力化された「影」のキャンバスに塗られた色の面積が広かったということだ。アイクは心に色が左右される、特殊な調合師だから。

「レイン絡みで何かあったのか?」
「……。」
「ユーリ、ルイ。研究チームは何を隠してる?」

 今日の事調委の会議は噂に聞くような雰囲気じゃない。ケイティが事故調査委員会の議長としてルイとユーリに尋問する。その前に、今日の会議はこれで解散だと一言、付け加えて。

「ユーリ、何があった?」
「2日前だな、縫合途中の結界を突き破って「表」から女が迷い込んできた。それが「表」のレインだった、それだけだ。現場にいたのはマーノとT2、この2名にはこの事実を守秘するよう指示した」
「何故すぐ事調委に報告しなかった!」

 言ってみればこれはかなり大きな事故。まさか穴からじゃなく、縫合途中とは言え結界を突き破って迷い込まれて来てるんだから。声を荒げるケイティに黙るユーリ。意思と意思のぶつかり合いはただ、黙って見守るしか出来なくて。

「こうなるってわかってたからだろ」
「ルイ」
「この件が知れればアイクが使い物にならなくなる。俺たちはそう判断したからマーノとT2にこの件を報告するなと指示した」
「だが結局アイクはその事実を知ってショックを受けてる、今日の「体調不良による欠席」はそういう解釈でいいな!」
「ああ」
「この事故を報告しなかったのは処罰の対象だぞ」
「ああ、好きにしろ」

 ルイとケイティが睨み合う中沈黙を破ったのは、煙草の煙を燻らせ始めていたBJ。

「なあユーリ、アイクが復活するしないっつーのは、アイツ次第だっつったよな?」
「そうだな」
「「影」も強くなってんだよな」
「そう言ったはずだ」
「これって、結構ヤバいっつーコトだよな?」
「ああ」
「とりあえずリッカが出てくるまではマーノに繋いでもらって、こっちもアイクが復活するまでこれまでのカラーストックで何とか繋いでやらぁ。でだケイティ、最近の「影」には妙に強い悪意が乗ってるっつートコの話が聞きてぇんだけど」

 そうだ、後から個人的に話をすると言われていたその内容だ。暗い議会室、5人だけしかいない部屋に映し出される映像。これはこないだ、リッカが大ダメージを受けたときのクロ5だ。

「ここ」

 映像は一旦停止され、ズームインされる「影」の姿。どんどんどんどん画像は大きくなり、「影」に寄っていく。食い入るようにそれをガン見するのは、うちとBJ。ったく、戦いは現場で起こってるのにどうしてこういう情報が現場に入るのが一番遅いんだ。そして「影」の拡大が止まったところでレーザーポインターが示すのは、「影」への刻印。

「これは?」
「アイラの紋章だ」
「……。」
「あの堕天め、姿を消してやがったと思ったら、どうやら本腰入れて動き出したようだ」
「とにもかくにも、2つの世界に穴が頻繁に開くようになったのは自然現象なんかじゃないってコトだ。意図的に、2つの世界を消しにかかってる」

 いよいよ本格的に、戦うことが仕事になりそうだと息を飲む。下手したら戦争モノだな。


(2010/07/07)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -