「あーもう、ユーリさん退屈ですー!」
「ダメだ、3日間絶対安静と言ったのがわからなかったか。強力な「影」の散弾をまともに2発も食らった挙句、生体エネルギー結界で超強力な波動砲を受け続けただと? そんな状態で班に戻すワケにはいかん」

 こないだのクロ5との戦いの後、結界を張るだけ張って倒れたアタシは研究施設内の病棟に閉じ込められている。絶対安静3日間の診断をもらって、久々に休みだと思ったら入院生活がこんなにも退屈だとは……
 もう力も戻ってる感じもするし、って言うか動いてない方が余計に身体を悪くしそうと言うか。ご飯のメニューも量も決まってるし、それこそお腹が空きすぎて死んじゃいそう。

「もう結構回復してるんですけどー」
「ほう? 検診で出た数値は嘘を吐いとらんみたいだがな。まだ満足に飛ぶことも出来ないクセに何を言うか」
「飛べますー!」
「そうだ、ナユから伝言をもらってるぞ」
「ナユさんから?」
「『完全回復するまで出てくるな、少しでも後遺症が残ってたら捻り潰すぞ』……以上だ」
「ふーんだ、ユーリさんのケチ!」
「何とでも言え。だがリッカ、何を言っても名医たるこのオレ様が診たお前に対する診断結果と退院日、まあ未定だが? それは覆らんからな」
「イー…っだ!」

 ユーリさんが出て行ってすぐ、コンコンと響くノックの音。アタシを訪ねる人に覚えはなかったけど、とりあえずはーいと一声。

「あの、リッカ先輩、入っていいですか?」
「どうぞー」

 病室に入ってきたのはT2だ。班も違うのに、何の用だろう。それにしてもすごい荷物。ブレスレットに収納してくればよかったのに。

「てかT2、どうしたの?」
「リッカ先輩が入院したって聞いて。あの、つまらないものですが」

 そう言って棚に置いてくれたのは入院の定番、果物カゴ。ここじゃいつだって甘い物は不足してるから、これは結構嬉しいかも。そして、冷蔵庫にはプリンとゼリー、それとシュークリームたち。とにかく詰め込まれる食べ物。

「このプリンたちは?」
「リッカ先輩のお見舞いに行くならって、ナユ先輩とマーノ先輩からです。ナユ先輩とマーノ先輩は、面会時間内は本来活動時間ではないですから」
「そっか、ありがと。でもT2、自分の仕事は?」
「あー…っと、その…俺は今日、休みなんです。えっと、代休です代休!」

 T2に気まずい顔をさせてしまったのは紛れもなく自分なのだと。聞いといて気付くのが遅すぎる。穴を見つけてから修復完了までの流れを考えればわかることなのに。
 探索班はアタシがいなくても溢れる「影」を無力化することが出来るし、マーノが「結界代わりの簡単なバリアくらいなら張れる」って言ってたからアタシがいなくても少しくらいなら大丈夫らしい。
 だけど修復班、と言うかT2はアタシが張った結界を縫合するのが仕事だから、アタシの作業が止まると必然的に仕事がなくなっちゃうんだ。

「あ…っと、何か、ゴメンね?」
「いえ、探索班は仕事が早いので、修復班の仕事がなかなか追いついてなかったんです。なのでちょうどいいくらいですよ」

 ほら、マーノ先輩ほどじゃないですけど修復班にも遅刻の常習犯の方がいますから、とT2は笑う。

「でもT2は」
「俺は探索班のペースに合わせて縫合だけ早めに済ませてたんです。なのでBJ先輩も、有休にしとくから今日は思いっきり休めって」
「BJさんかー…あの人、相変わらずイジワル?」
「意地悪かどうかはわかりませんが、まあ、相変わらずですね」

 病室では本当にすることもなくて暇だったから、話し相手が来てくれて本当に嬉しい。それに、班が違うとこうやってゆっくり話すこともなかなか出来ないから。

「あの…リッカ先輩」
「ん?」
「先日はスミマセンでした」
「何か謝られるようなことしたっけ?」
「あの「影」と先輩が戦ってるときに、俺は何も出来なくて――」

 何か、それが「本題」だったのかな、という気もする。きっとキマジメなT2だから、自分が「影」に対して何も出来なかったことを悔いてるんじゃないかって。

「ううん、謝らなきゃいけないのはアタシの方。T2のいたA-5区域に「影」の侵入を許しちゃったんだもん。アタシ、全然まだまだだよね」
「そんなことないです! あそこで先輩が波動砲を防いでくれなかったら、縫合中の結界が破れてました。あそこで俺、何で見てるしか出来ないんだろうって……」
「でもT2は、アタシがエネルギー使ってあの光線と真っ向勝負してるとき、後ろから支えてくれたでしょ? 感じたよ、T2のエネルギー。T2がいたからあの結界は破られなかった。あの結界はうちら2人で守ったんだよ? もうちょっとポジティブに考えよっ?」

 そう言えばあの結界には今日彩色が行われるみたいですよ、と修復班内のプチ情報。ちょっと弱かったから一応あの後もう1枚重ねたけど、大丈夫かな。いや、きっとT2が何とかしてくれてる。

「T2」
「はい?」
「来てくれて、ありがとね」
「いえ。リッカ先輩も、元気そうでよかったです」
「一緒に、少しずつ強くなってこ?」
「はい」

 窓から見える空は、キレイなスカイブルー。白いところにどんどん色が塗られていく様子が見える。ちょうど修復班の作業中みたい。そう言えば、他の班がこうやって作業をしてるところなんて、見たことないから新鮮だなー。

「そう言えば、退院はいつごろなんですか?」
「さあ。あの性悪のセンセの気分次第じゃないのー?」

 T2があわわわ、といった表情をしているから何かと思えば、案の定。ですよねー、な展開にアタシは冷や汗をかくしかなかったワケで。

「で、誰が性悪だと?」
「まっ、まさか優秀なユーリセンセが性悪だなんて! ねえT2!」
「あ、えっとー…俺は何も聞いてないです」
「そろそろ面会時間は終わりだ」
「ではリッカ先輩、俺はこれで」
「うん、ありがと!」
「T2、帰りにガレージに寄ってってくれ、ルイがお前に用があるそうだ」
「ルイ先輩が? わかりました」
「それとリッカ、オレ様は優秀なんじゃなくて天才だ、覚えておけ」

 誰もいなくなって退屈になった部屋。白レンガの色が浮いていた空も、今じゃどこに穴が開いていたのかわからなくなった。やっぱりみんなすごいなぁ。それに、ナンダカンダ言っても研究チームの2人もすごい人だ。

 アタシももっと、強くなりたい。いや、強くならなきゃ。

 そんなことを考えた空の下病室の中、まずは決意のプリンを1個。よーし焼きプリンちゃん、さっそくアタシと同化してエネルギーになれー!


(2010/06/27)
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