「マーノ、次の穴はどこだ?」
「優先順位が高いのはあそこですね。見るからにマーブル模様の空の下、です」
「なるほど。大きな獲物、ってコトか」

 一方こちらは探索班。探索班の仕事は、「あちら」と「こちら」の間に開いてしまった穴を探し、そこから漏れ出した歪んだ力を持つ「影」を除去すること。そして、開いてしまった穴の広がりを抑えることです。開いてしまった穴の広がりを抑えれば、そこに修復班がやってきて縫合から色の調合、彩色までの一連の作業が行われます。こうして初めて穴が完全に塞がれるのです。

「ったく、お前がいつもいつも寝坊して来るから作業が遅れてるんだぞ! ケイティにどやされるのはいつもうちだ、いい加減にしろ」
「申し訳ございません、如何せん夜行性なもので朝には弱くて」
「それが言い訳になるか。うちだって夜行性だぞ。それに今は朝じゃなくて昼だ!」

 探索班班長のナユはいつもマーノに頭を抱えていました。探索班の作業は「穴」を探すところから始まります。ところが、穴を探す能力を持つ探索師・マーノが時間にルーズなのです。マーノの遅刻癖のおかげで探索班の作業が予定通りに進んだことがないと言っても過言ではないほどです。

「ったく、「こちら」でも「あちら」でもお前は本当に時間にルーズだな!」
「ええ、「こちら」でも「あちら」でもよく言われます、進歩がないとは」
「ナユさ〜ん、アタシもうお腹空きました〜」
「恨むならマーノを恨め」

 基本的にこの世界では天使は昼に活動し、悪魔が夜に活動しています。修復班は純粋に天使だけのチームですが、探索班は天使と悪魔の混合チームです。天使のリッカと悪魔のナユ、マーノの3人で構成されているので生活リズムも違います。ですが、仕事は時間を選びません。
 現在時刻は昼の2時過ぎ。リッカにとってはもうすぐおやつの時間ですが、ナユとマーノにとってはまだまだ寝起きの時間帯。ナユはとても不機嫌です。ただ、その怒りの矛先になるのは基本的にリッカではなくマーノなのですが。どうやらそれは「あちら」でも「こちら」でも変わらないようで…いえいえ、余計なことを言いました。

「よし。リッカも腹が減ってるみたいだし、そろそろ狩りに行くか」

 マーノの指したマーブル色の空の下に向かうと、見事なまでの穴が開いていました。

「……しかし、これまた活きのいい「影」だな。」

 そうナユが溜め息を漏らしてしまうほど、「こちら」の世界からは歪んだ力が漏れてきていました。これを放っておけば、「あちら」の世界のバランスが本格的に崩れるのも時間の問題、そう判断せざるを得ないほどの穴でした。

「今回の「影」はより強固な実体を持ってますね」
「よっぽど向こうで何かしら恨み辛みがあるんだろ」

 「影」に実体があるのとないのとでは、仕事の効率に大きく差があります。「影」に実体がある場合、物の怪化していることも少なくないので除去するのに大きな労力を必要とします。

「マーノ、この「影」はどっちだ?」
「黒ですね」
「だろうな」

 ナユのするブレスレットから取り出されたのは鞭です。この鞭で彼女は穴から漏れる「影」を押さえ込むのです。「影」を捕獲し、無力化するのがナユに与えられた「調律」の能力です。時として今回のように「影」が実体を持って襲い掛かってくることもありますが、やることは同じ、と割り切って仕事をしています。

「くそっ、すばしっこいヤツめ! どこへ行った…?」
「ナユさん後ろっ!」
「――…っ!」

 マーノの声で振り向きざまに鞭を振れば、どうやらそれが急所にヒットしたらしく息も絶え絶えな「影」。探索師であるマーノだからこそ捕らえることの出来た「影」の動きに呼応した鞭のしなりは、無意識に。

「……ギリギリ、だな」
「ナユさん、今のうちに無力化を」
「わかってる」

 ナユの力で捕獲した「影」が目映く光り、白いレンガ状に変形してしまいました。これで「影」の無力化は完了です。

「リッカ!」
「はあ〜い、」

 ナユから受け取ったその白いレンガを一口で飲み込んだリッカの仕事は、開いた穴に結界を張って一時的に凍結させること。こうすることで、「こちら」からも「あちら」からも力の迷い込みがなくなり、修復班の縫合師が作業しやすくなるのです。
 リッカが結界を張るためには、その場所から流れ込んできたモノを体内に取り込む必要があります。「結界」と言うよりは「パテ」や「継ぎ接ぎ」の方がニュアンス的には近いかもしれません。それが先程ナユの無力化した「影」で生成した白いレンガだったのです。

「結界、張りましたー!」
「よし、あとは修復班の到着を待つだけだな」

 そして、探索班の仕事の締めくくりが修復班への連絡です。

『はいこちらBJ』
「こちらナユ、「影」の無力化完了」
『了解』

「さ、マーノ。次の穴はどこだ?」
「え、もう行くんですか?」
「お前が遅刻するから進捗が遅れてるんだろ! BJにも文句言われるのはうちだ!」
「ナユさん、アタシお腹空いて動けません」
「今食べたばっかだろ、もうちょっとガマンしろ」

 今日も今日とて遅刻癖のある探索師と戦いながら、影と戦い続けるナユ率いる探索班。どうやら世間体も結構気にするようで、進捗遅れには敏感です。生活リズムも大きく異なる3人ですが、一応上手く回っているようです。


(2010/05/29)
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