何年かに一度、この星の危機がどこからか伝えられる。SFめいた脅し文句と一緒に言われるそれは、不安を煽るだけ煽って結局はまたそれを先送りにしての繰り返し。
 いつこの星に他の小惑星がぶつかろうともなるようになるだけだし、無理に宇宙の摂理を歪めるのは人間のエゴだろうと。

「で、そんな絵を描いているのか」
「宇宙の果て……イメージ図」

 美奈のスケッチブックに広がっているのは宇宙の果てのイメージ図だという。美奈は空想的なものを描くことが少ない印象があるが、何を想ってそれを描いているのだろうか。

「美奈、出来た?」
「こんな感じ?」
「わぁ、すごい」
「久月、お前が美奈に描かせたのか」
「宇宙のイメージは人それぞれ、何も調べ上げられてる事実だけがそれじゃないでしょ? どうせならいろんな宇宙を見てみたいって思っただけ。どうせなら上手い人の絵で見たいって思うのは性だよね」

 美奈のスケッチブックを抱え満足そうな表情を浮かべる久月に、オレも石川も呆れたため息をひとつ。
 大学では天文部に所属している久月は、ゼミでの研究もそれを絡めて何か出来ないかといつも画策している。表向きはおとなしい化学実験やプログラムに甘んじているようだが、裏では何を企んでいるのかわからない。

「そんなに宇宙の果てが見たいなら自分でCGでも作ればいいんじゃないか?」
「わかってないな、石川は」
「は?」
「CGじゃなくて手書きなことに意味があるんだって。単に私の好みなだけだけど」
「ああそうですか」

 久月の所有物である天文雑誌を読みながら、石川がきっちり閉まっていたカーテンを開けば窓の外に広がるのは星港の夜景。

「すっかり夜だな」
「はぁっ…全然星なんて見えやしない」
「そりゃこの夜景じゃな」
「もう少し山の方に行ったところの施設にあるプラネタリウムなんかを見ても、星港の夜景の明かりが空に映り込んじゃって星が見えなかったりするんだよ」
「「「へえ」」」

 各々の得意分野についての講釈が始まると、それが止まらないのがこの部屋の住人たちだ。久月の得意分野はもちろん星云々の話だ。
 ただ、こうもペラペラと話しているのも珍しくテンションの高いときのことだ。普段は物静かで、どこか影があると言うか。

「久月、次に小惑星が近付いて大騒ぎになるのは何年後だ?」
「さあ。公式発表なんて日々変わるから」
「お前のことだ、いっそ小惑星がぶつかってしまえばいい、なんて考えてそうだけどな」
「まさか」

 まさかと言うその表情が笑えないくらいの笑顔だ。そんな表情、滅多にしないクセに。

「小惑星がぶつかって、気候変動が起きるのを遠くで眺めてるのも楽しそうだけど。それこそCGじゃ物足りない。そう思わない?」
「まあ、わからなくもないけどな」
「それでもどこか自分のことじゃなくて、他人事として観測していたい。浮遊して、自分自身をもどこか他人事のように見てみたい。どこか斜め上の方から」
「ふっ、いかにもお前の考えそうなことだな」

 破滅願望とでも言おうか、どこか空想めいた世界に浮遊しながら科学を使ってその瞬間をはじき出し、待ちわびている。今か今かと滅びのときを待つその目の輝きは、「生」には向けられることのない光。

「オレはお前ほど悪趣味な女もそういないと自信を持って言える」
「失礼しちゃうな。石川さん、私オールドファッションがいい」
「わかってる」

 核心を突かれそうになると関係のないところに逃げ込むのはヒトという動物の本能なのかもしれない。今だって、久月にとって都合の悪い展開になってドーナツに逃げた。
 まあ、オレだってそんなに深く考えているワケではない。久月が人の数だけ存在する「宇宙の果て」のうちのひとつを美奈に描かせようが、それは「好きにしろ」と一言で済む話。

「でもリンも考えてみてよ。人は遠い昔から宇宙に想いを馳せてるんだよ? その証拠に、音楽にだって宇宙とか惑星だとかを題材にしてる曲がいっぱいあるでしょ」
「言ってしまえばそうだが」
「昔から今まで科学がいくら進歩しても謎がどんどん深まっていくのは宇宙、だと思うんですよ私は」

 また宇宙講釈が始まってしまった。少し落ち着いていたと思ったのに。美奈はその宇宙講釈を聞きながら、スケッチブックの新しいページにまた絵を描き始めた。石川は我関せずの様相で次はどんなプログラムで作るかと構想を練っている。
 まあ、このゼミには変わり者が集まることで有名だ。オレも「普通」の学生であった覚えはないし、目の前にいるコイツらも十二分に変わり者だ。
 その中でもさらに変わった考えの持ち主である久月が持ち前のめんどくささを発揮すれば、そのお守り役を押し付けられるのは何故かオレだ。

 まあ、自分たちの好奇心と可能性こそが宇宙だろ、とか寒いことを言わずに話の腰を折らないところが親切だと我ながら思う。

「リンさん、お茶」
「ビーカーティーでよければすぐに出すが」
「ビーカーでもフラスコでも」


end.


++++

3タイトルクロスオーバー企画第3弾は、JJ*nano-spiral×raise「ピエロガール」です。
憂芽のキャラ崩壊が起きましたが、元が明るくない話なのでこれくらいしてもいいかなと。
そして憂芽のキャラだと星大組と組み合わせるのがベストだと思ってこの組み合わせです。
ただ、リンちゃん&憂芽って感じで石川と美奈がおまけっぽくなってしまいました(笑)
と言うかリンちゃんって言うよりTWAOユーリさんぽくなっちゃったw

初出:24*nano-spiral(10/08/28)

(10/09/16)
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