「はぁー、暑いですね守川さーん」
「そうだね」

 今日は弁当を持ってこなかったから、昼休みには外に出て適当な物を食べにいく。とは言っても限りのある時間だ。ゆっくりとご飯を食べるというわけにもいかず、ささっと食べられる物をコンビニで買い込んで。

「まあ、たまにこうやって外でご飯を食べるのもいいんじゃないかな」
「これはこれでいいとは思いますけどね」

 立ち寄った公園のベンチは、いい具合に木陰になっていて歩いていた時よりは少し涼しい。そして俺たちと同じ昼休み中のサラリーマンと思しき人が顔にタオルをかけて眠っている。

「でも今日は何だか賑やかですね」
「あ、何かイベントやってるっぽいよ」

 守川さんが指す方を見れば、いろいろな露店のテントが立ち並び、ステージではMCのお姉さんが笑顔を振りまいている。
 きょろきょろと公園全体に目をやると、「ファンタジックフェスタ」の文字とタイムテーブル。そして目が合う見知った顔。

「あれっ、うーす」
「あ、高崎さん。お疲れさまです」
「つーかお前ら開発なのにこんなトコで何やってんだ?」

 そういうイベントもあるんですね、と話しているとやってきたのは営業部の高崎さん。俺たちと同期で、守川さんや前原さんと同い年だから俺とは2歳違い。

「俺たちはたまには外に出てご飯にしようかって。高崎君は?」
「俺はいつもメシは外だ」
「「営業、お疲れさまです」」
「そりゃどーも。で、ファンフェスやってるっつって大学の後輩からメールあったし、ついでだから見てくかって」
「ところで、ファンフェスって何ですか?」
「まあ、軽い野外イベントだな。そんな大したことはしてねぇけどな」

 昼ご飯も食べたし、少し回ってみようかとふらふらと誘われるようにテントが立ち並ぶ空間へ。高崎さんの案内でふらふらと巡る。

「ここの揚げ鯛焼きがすげぇ美味くてよ。あ、おやっさん!」
「いらっしゃい! おー、BJクン! いっちょ前にスーツなんか着込んでどうした!」
「俺今年就職したんすよ。今昼休みっす」

 そう言えば高崎さんはこの辺に実家があるんだっけ、と総務の人から聞いた情報を頭の中ですり合わせる。
 それにしても、高崎さんと露店のおじさんがフランクすぎる。まあ、そういうところも高崎さんが営業たる所以なのかもしれないけど。

「するってーと、後ろは同期と先輩か?」
「守川、お前先輩に見られたっぽいぞ」
「え、俺先輩?」
「2人とも同期っす。このちっさいのは専門卒なんで2コ下なんすけど」

 露店のおじさんにぺこりとお辞儀をすると差し出される小さなカップ。その中には揚げたての小さな鯛焼きが3つ。

「そうかそうか。よっしゃ、俺からの就職祝いと働く若者への激励ってことで持ってけ持ってけ!」
「え、いいんですか!?」
「おやっさん、毎年どーも」
「まあ、BJクンだからなぁ」

 思わぬ所でゲットしてしまったデザートに、甘い物好きの守川さんはご機嫌のようだ。そして俺が気になったのはおじさんの言う高崎さんの愛称?と思われる「BJ」というワード。

「高崎さん、BJって何なんですか?」
「ああ、次の場所に行けばわかる」

 そう言って高崎さんは迷うことなく次のテントに向かう。そのテントに近付くにつれ、ステージとはまた違う賑やかさ。

「うーす、やってっか?」
「あ、高崎先輩! お疲れさまです」
「え、高崎先輩!?」
「マジで!?」

 高崎さんの姿に沸いているそのテント。「先輩」と呼ばれていることからここにいるのは高崎さんの後輩だろうか。
 ファンタジックフェスタの一角で行われている簡易ラジオ番組。これをやっているのは向島インターフェイス放送委員会という組織に属している大学生たち。

「よう高木」
「高崎先輩、今はお昼休みか何かですか?」
「ああ。だからちょっくら見に来たんだけどよ。お前の番組はまだか?」
「俺はこの次ですね、1時からです」
「あ、生野守川、俺の後輩」
「どうも」
「んで高木、こっちが俺の会社の同期」
「「どうも」」
「生野、コイツお前とタメだぞ」
「えっ、そうなんですか!?」

 高崎先輩には相変わらず後輩たちが群がってきている。今先ほど紹介された高木君は落ち着いた雰囲気を醸し出しているけど、やっぱり同い年でも学生は少し若いなぁって思う。

「高崎さん、すごいなー」
「高崎先輩はIFのスターなんですよ。現役時代はIF内アナウンサーの双璧とまで言われてて」
「へぇ、つまり喋りが立つってことなんだ?」
「そうですね」
「「さすが営業」」
「警察官を目指してた高崎先輩の就職先がIT企業の営業って聞いたときは驚きましたけどね。お二人は高崎先輩の同期なんですよね。営業なんですか?」
「俺たちは開発の方だね」
「あ、技術職なんですね」

 さっきもらった揚げ鯛焼きを食べながら、このイベントのことや高崎さんのことを高木君から聞いたり、こっちも今の高崎さんのことを話したりして。

「そう言えば、高崎さん、さっきからBJって呼ばれてるみたいだけど、それって何?」
「ああ、俺たちがこうやって番組をやるときに使うDJネームってヤツです。高崎先輩のDJネームが「BJ」だったんです」
「なるほどね。」
「あの揚げ鯛屋さんは、高崎先輩が2年のときにここでやった番組で意気投合してそれ以来仲良くなったそうです」

 いつも隣のデスクにいる守川さんとは違って、なかなかその仕事ぶりや細かい人格の部分までは知ることの出来ない高崎さんのことを聞くのは楽しくもあった。
 俺たちは屋内で開発を、高崎さんは屋外で営業を。働き方は違うけど同じ同期だし、たまに会ったときくらい楽しく話したいと言うか。

「あ、生野君。俺たちはそろそろ会社に戻らないと」
「そうですね、昼休みが終わっちゃいますね。高崎さーん!」
「あー?」
「俺たち、そろそろ会社に戻ります! ありがとうございましたー!」
「おーう」

 イベントの賑やかな音を背中に、あんなに楽しそうにしていた高崎さんの姿を再び思い浮かべる。
 普段は喫煙室で気だるそうに前原さんと話していたり、たまに社内でご飯を食べるときもコンビニの駐車場で食べる昼食の空しさについての話がメインだったから。

「高崎君、楽しそうだったね」
「そうですね」
「営業かー、彼にはナンダカンダで合ってるのかもね。お酒も強いし」
「ま、俺たちはきっとずっと開発なんでしょうけどねー」
「わからないよ生野君。君なんか人に好かれやすいから、いきなり営業に飛ばされるかもしれないよ」
「げっ、守川さん怖いこと言わないでくださいよ。守川さんだっていつ飛ばされるかわからないじゃないですか!」
「そうだねー、出来れば営業よりは開発だな、俺は」
「俺だってそうですよ!」

 突発的な人事異動に怯えつつ、歩く会社への道のり。背中で受ける音はいろいろ混ざり合っていて、わかるのは賑やかだということくらい。
 開発の中でもいろんな仕事をしている人がいる。違う部署の人になると何をしているのかは本当にわからない。ひとつの会社の中でもいろいろな仕事があるんだなぁって。

「さ、午後からも頑張ろうか」
「そうですねー」


end.


++++

今年の8月末に行われた24*nano-spiralで公開したコラボ企画SSです。
3タイトルクロスオーバー企画第1弾は、raise「生野君と守川さん」×JJ*nano-spiralです。
本当はぐだぐだと前原さんあたりとしゃべってもらう予定でしたが、高崎を営業に据えてみました。
生守とタカちゃんの3人だとほわほわしててあたりには癒しの空気が漂いそうです(笑)

初出:24*nano-spiral(10/08/28)

(10/09/10)
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