「この辺?」
「あ、ちょっと上の方が見切れてます」
「こんな感じ?」
「はい、いい感じです。あとはピントですね」

 セッティングするのは、プロジェクター。今週から週1で行われるセミナーのためだ。守川さんが細かい位置を設定して、俺はスクリーンに映る画面を遠くから眺めてチェックする係。

「お、生野守川、雑用か?」
「前原さんおはようございます!」
「前原君おはよう」
「何やってんだ?」
「プロジェクターのセッティング。ほら、今日セミナーじゃん」
「あー、そーいやそうだな。ま、頑張れ!」
「あっ、」

 前原さんがポンと守川さんの肩を叩けば、ズレる光。スクリーンから画面が半分以上見切れてしまう。それと同時に聞こえてきたのが悲鳴だったのだから。

「まぶしーい!」
「美佳子大丈夫?」
「目ぇおかしい!」

 思わず塞いだ耳に突き刺さる辻さんの声は、いつものように開発室全体に響く。だけど、今回は少し事情が違うようだ。守川さんはその悲鳴に、素早くプロジェクターの光をスクリーン上に戻し、辻さんの元に。

「辻さん大丈夫?」
「あっ、守川さん。大丈夫です、ちょっとチカチカするくらいで」
「ゴメン。時間経っても見えにくいようだったら言って。眼科に行った方がいいだろうし」

 何やら大事になってきたぞと俺も前原さんも辻さんの様子を窺う。やっぱり守川さんは紳士的だー。ただ、この守川さんの優しさを勘違いした女が1人。

「辻さん大丈夫ー?」
「生野! アタシ今守川さんからの愛の光で目が潰れてる!」
「ラブラブビームやん」
「ラブラブぅ、ビームっ!」
「ラブラブビ〜ム」
「違う生野! もっとウインクはこう!」

 辻さんと一緒になってラブラブビーム(左胸の前に手でハートを作って、ウインクしながらそれを前に突き出すんだ)を撃っていたら、守川さんからの生暖かい視線が突き刺さってくるワケで。す、スイマセン守川さん、ちょっとふざけすぎました。

「前原君」
「ん?」
「逃げていいかな?」
「それは出来ないな。諦めろ」
「こんな目に遭うぐらいだったら、まだ医療費ぶんだくられる方がよかったな」
「ご愁傷様」

 とは言えセミナーが始まってしまえばそれこそ至極真面目にそれを受けているワケで。立て付けが悪いのか、少しずつズレてくる画面を直しながらの受講は続く。テキストとにらみ合いながら、出来る範囲で課題を進めていく。
 狭い部屋に詰めるだけ詰めているから、その人口密度とマシンからの放射熱で部屋はどんどん暑くなっていく。それに、少し動くだけでも自分の影がスクリーンに映し出されてしまうから身動きの出来ない状況もまた辛い。
 辻さんは辻さんで、どうやらまだ少し目がおかしいみたいだけど特に大きな異変もなく真面目に講義を受けているようだ。前原さんは隣にいる深海(フカミ)さんと適当にやっている。

「はー! やっと背伸びが出来るー!」
「確かにこの位置だとなかなか身動き取れないよね」

 休み時間になったのと同時に、守川さんと大きく背伸び。あー、動けるって素晴らしいなー

「あ、プロジェクターはとりあえずカバーかけとこう」
「そうですねー」
「光当たると暑いしね」
「てかこの部屋暑すぎですよねー、冷房かけてくれればいいのに。あ、何か飲み物欲しくないですか?」

 とか何とか話していると、開発室の端から聞こえてくるのは愛の光がどうとかいう辻さんの声。まさかとは思うけど、守川さんとその方向に目をやると、辻さんが春日さんや梅村さんと一緒にラブラブビームを撃っているではないか。

「今守川さんと目ぇ合った! アタシのラブラブビーム届いたぁ!」
「いや、守川君今明らかに美佳子から目ぇ逸らしたからね! ハルヒのラブラブビームが本物だから!」
「じゃあハルヒは誰にラブラブビーム撃つん?」
「えー? ハルヒはぁー、やっぱり課長かなー!」
「はいはい、辻もハルヒも言ってればいいよ」
「「なんなん里紗(リサ)! 男の趣味悪いクセに!」」
「いや、守川さんと課長って言ってる辻とハルヒよりは断然アタシの方が趣味はいい!」

 もちろんこの会話は開発室の端から端まで聞こえている。プロジェクターの光を受ける講義中でもないのに、心なしか集まっているような気がする視線。守川さんは、部屋の暑さとプロジェクターが原因じゃない汗をかいているようにも見受けられる。

「生野君、何か飲み物買いに行かない?」
「そうですね」
「あっ、生野! 何か買いに行くなら俺にペプシ! 後払いで!」
「ちょっと前原さん! 守川さんに雑用頼むなんて何考えてんのありえない!」
「あ!? 俺は守川じゃなくて生野に頼んでんだっつーの!」

 部屋の端と端で始まる辻さんと前原さんの大喧嘩。これに挟まれちゃたまったもんじゃないと足早に出る開発室。こんなに視線を受けるなんてゴメンだ。

「守川さん、ラブラブビーム受けてから散々ですね」
「そうだね。いっそ本当にその愛の光とやらで目を潰してやればよかったと思うくらいには恥ずかしいよ」
「で、守川さんは誰かに撃たないんですか?」
「は?」
「だから、ラブラブビームを」
「そうだな、道具を使っていいなら生野君、受けてみる?」
「勘弁してください」


end.


(10/05/29)
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