「おーい、準備体操は体育館3周してからだぞー!」

 貸し切り状態の体育館に、課長の声が響く。今日は課対抗バレーボール大会の開催日。体育館3周とか高校の体育かと思いながらもぐるぐると走る。

「守川さーん」
「ナニ」
「走ると、結構、キツいですねー!」
「体力は、少なからず、落ちてるね」

 息を切らせながらも会話をしてしまうこの光景こそがまさに学生の体育なのだろうと思いながら、バスケットゴールのネットを触ろうと助走をして、ジャンプ。

「生野君、届いてないじゃん」
「わかってます。でも、やってみたかったんです」
「あれっ、そう言えば前原君は?」
「前原さん?」

 はじめは同じペースで走っていた前原さんの姿を探せば、俺と守川さんからは半周ほど遅れたところでたらたらと走っている。日頃から体力はないと言っていたけど、やっぱり衰えは隠せないらしく同期の女子たちに冷やかされている。

「やっぱ前原さんおっさんだから走れないんでしょー!」
「うっせー辻! 俺はっ…今から、体力を、温存するという…頭脳プレイをだなぁ!」
「てか息切れしすぎだし。あー、やっぱり守川さんは走っててもさわやかだしカッコいいー!」
「はいはい、言ってろ言ってろ」

 3周が終わり、各自の準備体操が終われば適当に試合が始まる。課ごとの大会とは言っても主に駆り出されるのは1年生や2年生で、見知った顔ばかり。上の方の人も出てくるけど、やっぱり「若いのがやらないと」というスタンスで動く気はないらしい。

「じゃあまずは1部1課対1部2課で」

 1部2課のスターティングメンバーをチラッと窺えば、やっぱり俺たちと同じく若いメンバーばかり。見知った顔に、俄然やる気が出てくる。だって、上の人相手だったらある程度「接待」みたいなことを考えないといけないのかなって思ってしまうから。

「おっ、さっそく森若と新谷か」
「前原さん、体力温存の成果を見せて下さいよ」
「任しとけよ生野、俺の華麗なプレイを魅せたっからよ」
「えー、前原さんじゃ頼りなーい! 守川さん、アタシが守川さんのためにトス上げますからっ!」
「いや、俺よりも生野君や前原君に上げた方がいいんじゃないかな」

 そうこうしている間に始まる試合。容赦なく飛んでくるソフトバレーボールを追いかけて。如何せん素人の集まりだけに、お見合いや妙なミスばかりでなかなかバレーボールっぽくならない。

「ああもー! 生野ちゃんと拾ってよ!」
「ええー!? 今のは辻さんでしょー!」
「つーか2課の連中妙にレベル高くないか?」

 ――とか何とかやってる間に点差はだんだん広がって、色濃くなるのは敗北ムード。まあ、意外といけるかなーって思った俺もどうかしてたのかもしれない。気付けばマッチポイントで、あと1点取られたら負けだなんて。

「そーれっ!」

「辻さん!」
「はいっ! ……ゴメンミスった!」
「前原さんそっち行ったー!」
「オッケ!」
「ラスト! 守川さん戻すだけ戻してください!」

 前原さんがギリギリのところで拾って繋ぎ、守川さんが返すだけ返したレシーブを2課のメンバーがミスしてこっちのポイントになる。敗戦ムードが濃いとは言え、ポイントが入るとムードは明るくなる。

「前原君、ナイス」
「おう。守川も、絶妙なやらしさのレシーブだな。生野、ナイス指示」

 守川さんから差し出された手で起き上がった前原さんに頭をくしゃっとされて、改めてこっちのチームのサーブの準備。

「生野君、次サーブだよ」
「生野任せた」

 守川さんや、前原さんだけじゃない。突き刺さる全員からの視線。それは、コート上以外の人からの視線も含めて。何なんだこの緊迫感。

「行きます!」
「そーれ!」

 打った瞬間、わかったんだ。

「いったぁー!」
「ゴメン辻さん!」
「ゲームセット! 15対7で1部2課の勝ち。」

 ああ、このサーブは上手く行かないって。案の定ミスったサーブはなんとなんと辻さんの後頭部に直撃。この結末に、俺に突き刺さる全ての視線が硬直する。ゲームセットの号令が鳴れば、襲い掛かってくるのは辻さん。

「生野のバカぁ! アタシのコト狙ったでしょ! 何の恨みがあってそういうコトするん!?」
「だから辻さんゴメンって! わざとじゃない! イタイイタイっ!」
「まあ、辻に恨みを持つのはわからないでもねぇけどなぁ」
「あっ、ひっどーい! このハゲ! おっさん! 疫病神!」
「何だと! 生野、こんなヤツもっと本気で当ててやりゃよかったんだ!」

 結局バレーボール大会は初戦敗退に終わって、あとはもう他の部署の試合を眺めるだけ。コートサイドでは守川さんと、筋肉痛が出そうですねと他愛もない話をしながら配られたジュースで水分補給。

「まあ、たまの息抜きにはいいとは思うんだけどね」
「守川さん、何か他にやるんですか? スポーツとか」
「ああ…敢えて言うならバドミントンとか、いいと思うよ」
「バドミントンですかー」
「バドミントン大会だったらもうちょっと俺、やる気出すよ」

 とは言えまだまだ溜まったままになっている仕事のことを思えば、息抜きの効果も疑わしいと思ってしまうわけで。まあ、それを一時的にでも忘れることが期待されてるんだろうけど。そういや、同期内のスポーツ大会のお知らせもあったような…? その幹事って誰だったっけ。「参加」で返事、しておかないと。


end.


(10/05/16)
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