どうも、草です。僭越ながら、ここで自己紹介なんかをさせていただきます。
 種族はハイドロカルチャー、俗に言う観葉植物です。ある日、店に並んでたところを守川さんに買われ、守川さんの会社にやってきて早数ヶ月。僕のお世話は守川さんの隣の席にいる生野君が主にやってくれてます。おかげですくすく育ってます。

 ああ、今日もまた彼らは元気だねぇ。

「あー、守川さんおはようございますー」
「おはよう」
「最近気付いたんですけど、ジョニーめっちゃ育ってますよねー」
「そうだね。こんなに育つとは思わなかった。観葉植物ってそもそも大きくならないものだと思ってたし」

 ひょっとして守川さん、僕のことを結構甘く見てたんじゃないですか? って言うか、命ある草たる者、いい環境を与えられればそれなりに育ちますよ。まあ、見た目が全然変わらないようなヤツらもいることにはいるけど、少なくとも僕は結構育ちがいい方だと思う。
 実は、守川さんはあんまり僕のお世話をしてくれなかったりする。まあ、生野君が進んでやってくれちゃってるからなんだろうけどね。でも、僕も生野君にお世話をしてもらいたいって思う。どうしてかって? だって、「生野」っていう名前がなんだか植物的には縁起良さそうだし。

「前原さんおはよーございます〜」
「よう生野」
「あ、前原君おはよう」
「よう守川」

 げっ、植物的に縁起の悪い人が来た。
 前原さんは、いつも辻さんや春日さんに髪のことで冷やかされてる。どうやら本人も結構将来的な髪の量のことを気にしているっぽくて、生え際なんかをじぃっと見ている様はとても痛々しい。どうしてこの人が植物的に縁起が悪いのかっていうと、やっぱり「その辺」がね。

「つーかこれ、そろそろ邪魔じゃね? 結構場所とってると思うんだけど」
「いやいやいや、ジョニーは俺たちの癒しなんですから。ねえ守川さん」
「そうだね」
「それにしてもデカ過ぎんだろ」

 ふん、デカくて悪かったね。
 すると、部屋の端まで聞こえそうな声が聞こえてくる。この声を間近で聞くと耳が割れるんじゃないかってほどの。

「って言うか前原さん草に嫉妬してる!? 自分より量が多くて育つの早いからって!」
「うっせ! 黙れ辻! 俺と草を一緒にすんな!」
「だからその肥料、育毛剤にすればってみんな言ってるのにー! ねえ守川さん」
「そうだね。実験してみればいいのに。同じ肥料で育つかどうか」
「やっと守川さんがアタシに振り向いてくれた!」
「いや、そういう意味じゃないから」

 そう言えば前々から僕の肥料を前原さんの頭にふりかけてみたら、みたいな話があったっけか。実は何の気なしに一番さらりと怖いことを言うのが守川さんなんだよなぁ。やっぱり、普段ニコニコしてる人って腹の中じゃナニ考えてるかわかんないや。
 そして例によって始まる辻さんと前原さんのケンカを守川さんは完全にスルーしちゃってるし、生野君はわたわたしてる。いつ自分に火の粉が降りかかってくるかわかんないもんねぇ。身構えもするや。

「つーかお前いい加減それ以外のネタで突っ込んでこいや、実はネタねぇんだろ!?」
「相手の一番の弱点を突くのは当然じゃん! 突っ込もうと思えばいくらでも突っ込めるけど、そしたら前原さんが立ち直れんくなるでしょ? ハゲのことしか言わんのはアタシの優しさなんだって!」
「うっせ! ハゲって言うな! 俺はまだハゲてねー!」
「将来的にはハゲるよね? ハゲる前にお嫁さんもらわないとねー」
「テメーこそ貰い手ねぇだろ!」

 そしてケンカ中の2人に聞こえないのをいいことに、守川さんは生野君に「これって痴話喧嘩だよね?」と確認している。生野君もこれを否定しないから、きっとそういう認識でいいのかなぁ。でもナンダカンダでこの2人は仲がいい。この2人がいっそくっついちゃえば楽しいと思ってるのは僕だけじゃないだろう。きっと、守川さんも生野君もそう思ってそうだ。

「あ、生野君。そろそろ水やんないといけないかな?」
「そうですね。これからの季節、きっとまた育ちやすくなると思いますよ」

 あ、もうすぐ始業時間だ。やってきた課長の眉間がビキンビキンに固まってるよ。相変わらず賑やかなオフィスだけど、ちゃんと仕事してんのかなぁ。特に居眠り常習犯の守川さんなんかは。

「あ、肥料もそろそろ切れそうだー」
「じゃあ、今日の帰りにでも買いに行こうかな」

 何卒ご贔屓に。お礼と言ってはなんですが、デスク周りの癒しと僅かながらの酸素を君に。


end.


(10/05/10)
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