とある日の昼休み、第1システム部1課の1年生は悩んでいた。
 もうすぐ年末ということでうちの会社でも忘年会が開催されるらしく、その連絡メールが一斉に回ってきた。それだけなら全然いい。ただ、問題は課長に言われた一言。

「『新人は課ごとに宴会芸を披露する義務がある』ねえ」
「おい、どーすんよ守川」
「うーん、俺、宴会芸とか出来るキャラじゃないし。そう言う前原君も、いい案はない?」

 とりあえず今ここにいる1課の1年生は俺と守川さん、前原さんに辻さんの4人だ。他にも1年生はいるんだけど、休みだったり別オフィスのヘルプに行ってたりしてこの場にはいない。
 会社の忘年会での宴会芸だけあって、普段1年生の間でふざけあっているようなノリはまず通用しないだろう。下手するとその芸で身を滅ぼすことにもなりかねない。たかが宴会芸、されど宴会芸なのだ。

「あー…めんどくせーし、生野と守川の漫才とかでよくね?」
「だから俺そういうの出来ないって言ったばっかじゃん」
「おい生野! 守川を説得しろって、お前なら出来る!」
「それより前原さん、仮に俺と守川さんが漫才をするとして、誰がボケで誰がツッコミですか?」
「え、あー…それはー…まあ、ダブルボケでいいんじゃん? もう、適当にやって適当にスベりゃいいじゃねーかよ」

 どうやら前原さんは自分にさえ面倒なことが回ってこなければいいというスタンスらしく、何とか人数の要らない漫才という方向に持っていきたいらしい。冗談じゃない。どっちにしても何かやらされるのは俺なのに。

「前原さん、存在がスベってる生野はともかく守川さんをスベらすなんてこのアタシが許さんから」
「じゃ、辻と生野の夫婦漫才で」
「ああ、いいね〜。前原君にしては、なかなかいい案じゃない?」
「な? いい案だろ。守川もこう言ってる」
「ちょっ、守川さん納得しないでくださいよ。俺漫才とか無理ですよ!」

 やっぱり、こういうときに不利なのは実年齢が下の人間なんだと痛感する。同期とは言え成立しているある種の上下関係。いや、これはイジられやすい俺自身のキャラを呪うべきなのか。
 前原さんと守川さんは俺と辻さんの漫才の様子を想像してこれはいけると勝手に満足げだし、横では辻さんからの痛烈な視線が突き刺さる。意味がわからない。俺は何も悪くないじゃないか。

「だーいじょうぶだって、お前と辻ならただ喋ってるだけでも十分漫才として成立するって」
「それ、いつも通り罵倒されて終わりじゃないですか」
「アタシも生野となんかイヤだし! てか宴会芸なんて男子の仕事じゃん!」
「そりゃお前男女差別っつーヤツだろ」
「黙れハゲ、そんなに漫才がいいならアンタが生野とやればいいじゃん」
「ちぇー、面白いと思ったんだけどなー、夫婦漫才」
「でもー、アタシ守川さんとなら夫婦まんざ」
「やんないよ」

 てか守川さん拒否早っ。辻さんがセリフを言い終わる前というあまりの早さに俺も前原さんもただただ驚くばかりだ。
 夫婦漫才の夫婦っていう響きに酔っていた辻さんも現実に引き戻されたどころか心を折られている。

「って言うか、とりあえず漫才から離れない?」
「そこまで言うからには案はあるんだろうな、守川」
「ないよ?」
「なんだよ、結局お前もないのかよ」
「そういや、2課は新谷君と森若君が女装とコスプレで何かするらしいよ」
「それマジかよ守川」
「まあ、小耳に挟んだ程度だけどね」
「じゃあやっぱ1課は生野! お前が切り込み隊長だ!」
「生野、アンタのモノマネとかでいいんじゃない? 似てる似てないはとりあえずおいといて、キモさで勝負!」

 やっぱりこんなときに損をするのは俺みたいなタイプの人間なんだろうと思う。辻さんと前原さんは相変わらず俺に宴会芸を押し付けようとしているし、守川さんに至っては3人で何か頑張ってと言わんばかりの防衛モード。
 別に、宴会芸自体は義務だし嫌じゃないんだけど(嫌でもやらないといけないし)、俺だけ貧乏くじを引いたみたいになるのが嫌って言うか。それならまだ2課の人たちと一緒に女装で何かやってた方がマシだとすら思う。

「守川さーん、助けてください」
「あ、えーと? 期待してるよ、生野君。」

 結局この昼休みは何も決まらないまま終わってしまい、昼からの業務にも若干影響が出ている。
 まだやると返事もしていないモノマネを、如何にみんなに楽しんでもらえるか脳内でシミュレートしてしまっていたりして。ああでもないこうでもないと考えていると、それが声か顔に出ているのか守川さんがこっちをちらちら見て笑ってる。

「守川さん?」
「いや、何でもない。続けて」
「俺、モノマネやるべきなんですかね?」
「うーん…結局のところ、宴会芸って何をすればいいのかよくわかんないよね」

 何だか適当にはぐらかされてしまったような気もするけど、今日の間は守川さんに騙されておこうかな。


end.

(10/03/26)
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