良い子?






ラグナがおっさんって意外だなぁ。
老いって恐い。
なんか俺、若いままで死にたくなってきた。


ふふふ、嫌だな。
なんて意識を飛ばしかけていたら、不思議そうに俺を見上げるラグナの後ろから、ひょいと銀髪が覗いた。



「ラグナ、この人が◎という者か?」


やけに大人びた…といっても皆大人口調なんだけど、はきはきとした様子で問いかける少年。

九歳ぐらいに見えるこの子も元はおっさんだったのだろうか。

何とも言えない感情に陥りながらも、俺は少年と目線が合う高さに屈み込み頭を撫でた。



『そうだ少年。俺が◎お兄さんだぞ』

「っ、…私の名はウォーリア・オブ・ライトだ…!」


うは、意外とさらさらだ。
撫で心地の良い髪を梳いてやって自己紹介をすると、これまた長い名前の少年は目を丸くしたあと顔を赤く染める。

背けられた視線に、子供扱いされるのが恥ずかしいのだと気づき、名残惜しげに一撫でして止めておく。



『長いからウォーリア君で良いか?』

「あぁ、かまわない……その…君のことはラグナから聞いた。迷惑をかけてすまないな」

『良いよ。子供が…?まぁ、気にすることじゃないさ』


頭を下げるウォーリアは、とても責任感が強いみたいだな。
すまなさそうに眉を寄せて俯いている。

子供(?)は気にしなくていいことをいちいち気にしてると気疲れするぞ。



「◎、◎、」

『ん?』


心の中でウォーリアを気遣いが出来る良い子1と格付けしていると、ぽすぽすとラグナが腰元を叩いてきた。

首を傾げてどうしたと聞けば、指さされる廊下のちびっ子たち。



「悪いが、女の子がもう一人いるから、服貸してやれないか?」


困ったように俺を見つめるラグナの言葉を聞いて、ひくりと口元が引き攣る。
もう服と言えばこれしか…仕方ないな。



『…急ぎだからタンクトップで良い??』

「!!い、…いいぞ、別に……」


自分が着ていた黒のタンクトップを指で示し尋ねると、やはり戸惑ったのか一瞬目を見開き言葉を詰まらせるラグナ。

男の裸ほど見苦しいものはないもんな。
井上さんは別だけど。

同性とはいえ微かに照れがあるのか顔をほんのり赤くしたラグナに苦笑して、俺はタンクトップを脱いだ。


そして例の女の子を捜すべくスコールをつれて廊下の中へと歩いていく。

去り際にスコールはラグナをギッと睨み、小さく文句を言ってからついてきた。



「何をジロジロ見ているんだ」

「い、いや、綺麗な身体して「次そんなこと言ったらあんたを消すぞ」…すいません…」


スコールくんったら恐いね!恐い恐い!!
別にラグナは誉めてくれただけなのに、スコールは何かと突っかかりたいらしい。

ぎゅっと俺の手を握ってきた後、またラグナを睨んだ。



『こらこら、そう睨むなよ』

「…む…」


握り返して言えば、眉を顰めて俯く始末。
こりゃ相当嫌いなんだな。


ふぅ、と溜息を吐きつつも、俺を凝視する数々のちびっ子をきょろきょろと見渡し女の子を捜す。

髪の長いその子はすぐに見つかった。
あらら、元の服自体がなんかきわどいから、大変だ。



『着た後で悪いけど…ほら、これでもかぶってな』

「きゃ、っ!!だ、誰…?◎、さん??」


皆から背を向けていた為、必然的に驚かすように話しかけてしまった。

ビクリと肩を震わせたその子は、おそらくどの仲間とも違う声に気付いたらしく、頭にタンクトップを乗せたまま俺の名前を呼ぶ。



『あぁ、そうだ。まぁ、自己紹介は後回しで良いからそれ着てろ』


空いた手でくしゃりと髪を撫でて、まだ顔も見えないその子から背を向ける。

ついでにスコールも何となく撫でておき、俺は一生懸命に鎧から出て疲れた様子のちびっ子を見つめた。


皆、見事に整った容姿をしてるな。
此方を向いている8つの瞳は、ルビー、サファイア、トパーズみたいな沢山の宝石を連想させる。

顔に似合って綺麗な瞳だ。

うん…綺麗だけど……



『…スコール、とりあえず皆がどうして俺をガン見してるのか教えてくれるか?』


何で皆が皆、瞬き一つせず俺を見ているんだ?
ある意味お人形さんのようなその瞳が全部此方に向いてたらとっても気になるんだが…

仲間の心情は仲間が一番分かるだろう、と、いうことでスコールに聞いてみる。

すると彼は短い溜息を吐いて、呆れたように見上げながら指摘してくれた。



「…………あんたが上半身裸だからだ」

『…なるほど、』


そうだね上半身裸だね。
この状態をご近所さんに見られたら、俺は子供をさらって変なことをしようとする変態さんとしか思われないね。

まぁご近所いないけど。


ふむ、と頷いてスコールの言葉に納得した俺は、取り敢えずまともな服を取ってくることにした。



『ラグナ君、ウォーリア君、頼み事があるんだけど』

「どうかしたのか?私に出来ることなら何でも言ってくれ」


腰に手を当て後ろを振り返り呼べば、すぐさま隣に来たウォーリア。
子供なのに頼もしいことを言ってくれる彼に微笑み、有り難うと撫でてやった。

また顔を赤くして俯いたウォーリアに続き、ラグナも呼びかけに答えて此方に向かってくる。


「はいはーい◎―…ッ!恐いぞスコール…」

「………………」


ラグナを視界に入れた瞬間スコールは目に見えて不機嫌になった。



『はぁ……うーん、あと…そうだな、カインくーん』

「何だ、」

『!…は、早かったなぁ』


二人の遣り取りにうんざりしながらもカインを呼べば、いつの間にか前にいた紫の鎧。

瞬きをした時にはもうそこにいた早さに、思わず目を丸くする。


しかし早く来てくれたので、誉めようと兜に手を乗せる(やはり痛かった)と、カインは少し嬉しそうに頭をぽんぽんされていた。

うわ、何この子、可愛いなおい…!



『じゃあ三人とも、俺着替え取ってくるからその間に皆を居間に座らせておいてくれ』

「よーし了解!」


カインから手を離し三人に頼めば、元気よく返事をするラグナとこくりと頷く二人。



『あと、服とか生活用品買いに行くぞ。初めは俺だけで適当に買って、その後に誰か連れてもう一回行こうと思うから、一人か二人決めておけよ』

「分かった!」


最後に一番重要なことを話せば、またまた元気よく声を上げたラグナと、

……………顔を見合わせた二人。



「一人か二人……ということは一人でも良いのだな」

「迷惑をかけてはいけないから、そうなるだろう」


お互いに一歩も譲らなそうな雰囲気で火花を散らす二人は、そんな迷惑だとか気にしなくても良いことを気にしていた。

二人とも良い子だなぁ。



良い子?

あれ?ラグナが冷や汗流してら。





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